2025年5月25日日曜日

水道の話。

先月のガスに続いて、今月は水道の話。


日本国内の水道普及率は98%と言われています。ほとんどのところで、蛇口をひねると安全な水が出てきて、安心して飲むことができます。私たちにとっては当たり前のこと、でも世界ではそうじゃない、安全な水を確保できない地域が大多数。水道水をそのまま飲める国は、日本を含めて11か国しかないのです。


日本は水の豊かな国と言われていますが、日本の河川は長さが短く、流れも急で、雨が降ってもすぐに海に流れ出てしまうため、実際に使える水資源は少ない。

水資源賦存量というのがあるのですが、これは降水量から蒸発散量を引いたもので、理論上人間が最大限利用可能な水資源量のことです。世界平均は1人7027立方メートル/年、これに対して日本は3400立方メートル/年と半分以下です。もっと言うと、3400は全国平均であって、関東地方に限ると900立方メートルになります。人口密度も関係しているため仕方ないのですが、この数字を見ると首都圏で毎年繰り返される水不足にも納得できます。日本は決して水が豊かな国ではないのです。


そもそも水道水はどうやって作られるのか。


自然の中にある水を浄水して作っています。浄水場で、川や湖の水、地下水などを取り込んで、濾過し消毒して安全な水として送りだします。

簡単に説明すると、沈殿→攪拌→濾過→消毒という工程。取り込まれた自然水は、まず薬品を混ぜて砂やゴミを固めて、沈ませて取り除きます。次に徐々にスピードを落としながら攪拌する。砂の層を通して濾過し、最後に塩素による消毒を行います。浄水の過程でいくつかの薬品が使われますが、処理過程で除去されてしまうので、最後に残るのは塩素だけです。


水道水は、塩素消毒をし、蛇口における残留塩素濃度が0.1mg/ L 以上なければならないと定められています。これはWHOの基準の倍以上の厳しさ、世界トップクラスの安全基準だそうです。また、塩素濃度が高いと味やにおいに影響を与えるため、上限を1mg / L以下に抑えるという管理目標値も設定されています。

塩素濃度については、地域の事情に合わせて、地域ごとに基準があります。


水道料金について。


水道の料金、地域格差がとても大きいことはよく知られています。それはなぜか、水道事業は自治体が管理しているからです。

水道は公共性の高い事業、公共の利益を優先し住民の生活を保障するために公営とされました。また地域の水資源情報を把握しているのが自治体で、住民のニーズに合わせた事業を請け負えるからでもあります。そして独立採算制であること、水道事業の収益を事業運営のみに充てることで安定的に運営する。ほかの事業のマイナスを補填して、そのせいで水道が使えなくなったりしないように、ということでしょう。それは逆から言えば、水道料金以外の収入は使えないということ。これが自治体間の料金の格差につながっています。


水道料金もガスと同様、基本料金+従量料金で計算します。

一概に比べるのは難しいのですが、千葉市と東京23区で比較してみます。

基本料金:水道管の直径で異なる。(一般家庭向けは、13ミリ、20ミリ、25ミリくらい。)

     東京 13ミリ 860円/月 20ミリ 890円 /月   25ミリ 1590円/月

     千葉市 13ミリ 418円/月 20ミリ 979円 /月   25ミリ 1749円/月


従量料金 東京 1~5㎥ 0円 6~10㎥ 22円 11~20㎥ 128円 21~30㎥ 163円

     千葉市 1~10㎥ 62円 11~20㎥ 165円 21~40㎥ 268円 


例えば、20ミリの水道管で月25㎥使った場合は、東京では2315円、千葉では4590円の水道代がかかります。ただし東京では下水道料金が2580円プラス、千葉市では2030円プラス、合計で4890円、千葉市では6620円となります。(計算間違ってるかもしれませんが…)


参考までに、私の住んでるいすみ市は、2か月分計算になっていて、基本料金が2か月で20㎥まで3400円、それを超えた分は1㎥につき190円、それにメーター料金として13ミリで140円、20ミリで160円、25ミリで300円が加算されます。上と同様に、20ミリで25㎥つかった場合は2か月で9260円、1か月にして考えると4630円となります。うちは大体2か月で35~40㎥使っていて、水道代は2か月で7~8000円です。千葉は水道料金が高いと言われていますが、そうでもないなと思っていたけれど、改めて東京に居た時とそう変わっていっていないことが確認できました。ただし、いすみ市は下水道がありません。その分浄化槽の点検費が年間13000円ほどかかります。(浄化槽については後述します。)

また、この4月から、夷隅郡広域市町村圏事務組合というのができて、いすみ市、勝浦市、御宿町、大多喜町の水道事業を広域管理することになり、今後値上げが予想されています。今後の予想を見たら、広域化しないとどんどん値上げになっていくようで、少しでも値上げ幅を押さえるための措置のようです。

千葉県全体も水道料金の値上げが公表されています。日本全体といってもいいかもしれません。水の問題は、実はとっても深刻な状況にあるのです。


ちなみに、全国の水道料金の格差は2倍以上。

都道府県別では、1位神奈川県2142円に対して47位の青森県は4418円。(これは口径13ミリ、使用水量20㎥での金額。)自治体別では1位兵庫県赤穂市853円、2位静岡県長泉市1120円に対して、ワースト1位は北海道夕張市6841円、ワースト4位まで北海道で、5位は長崎県上天草市が6242円となっています。すごい差ですね。

この差の原因は、水源、地形・地理的条件、水道事業の運営規模、設備の老朽化と維持コストなど。水道に関しては選べないから、そこに行ったらそこの料金を払うしかない、お引越しするときは水道について調べた方がいいと思います。


*2018年に法律が改正され、民間事業者の参入が可能になりました。いわゆる水道民営化。2021年に宮城県で民間企業に運営権を売却・委託するコンセッション方式による事業が開始。東京では、水道局から維持管理などの業務を委託していた法人が合併し、東京水道株式会社が設立されて業務を運営しています。

水道民営化、知ってました?賛否両論のようです。


下水道と浄化槽について。


日本の上水道は98%設置済と述べましたが、下水道については81%ほどです(令和4年末)。人口密集地域では、下水道による処理の方が効率がいい、でもそうでない地域では初期投資の費用が高くて予算の確保が難しく、事業期間も長期に亘るため、なかなか手が出せず、整備が進みません。

千葉県では下水の設置状況は77%、全国平均より低く、特に私の住む外房方面は、未設置のところが多い。この図は千葉県の下水道実施都市の状況ですが、これで分かるように、いすみ市は下水はありません。


下水道のない地域での汚水処理は、浄化槽による処理が行われています。


ここに引っ越してきて、まず浄化槽って何?と思いました。下水のないところなんて、考えたこともなかった。不動産屋さんが浄化槽業者も手配してくれて、最初に来た時に「浄化槽使ったことあります?」って聞かれて、「全然ない」と答えたら説明してくれたけど、よくわからなくて。

今回調べてみて、やっとちょっとわかりました。要は、浄水場でやってるようなことを、各戸でやる、庭に埋めた装置というか水槽みたいなものを通して、汚水を浄化する仕組みです。

主役は微生物。まずは嫌気性微生物が汚水の中の有機物を分解する、そこに空気を送り込んで今度は好気性微生物がさらに分解、微生物は汚泥となって沈殿する、残った水は塩素剤で消毒して放流されます。放流?どこに流されるんだろうといつも思いますが、ただ単にその辺に流しているみたいです。いいのかな、と思いますが、浄化されてるからいいのでしょう。うちは周りがだいたい元田んぼの空き地だから、まいいかって感じです。


浄化槽の点検は4か月に1度、業者さんが来てちゃんと動いてるか点検して、お掃除してくれます。これは1回4400円。数年に一度、浄化槽に溜まった汚泥(微生物の残骸なのね)を汲み取る作業が必要で、これには結構お金がかかります。3年前にやった時は4万円ちょっとかかりました。検索したら年1回と書いてあったけど、うちは点検業者さんに言われたときにやってます。その費用を月にならすと、1000~2000くらいでしょうか。


今年1月埼玉の八潮市で下水道管が破裂、道路が陥没して運転手が落下し、3か月後に死亡している状態で発見されるという痛ましい事故があったのを覚えていますか?この事故を受けて、緊急点検が行われた結果、いつどこで似たような事故が起きても不思議はないということがわかりました。水道管は各地で老朽化しているのです。実際に、水道管の破損による事故は頻発しています。今年4~5月にも、京都市下京区や大阪市城東区で、水道管の破裂によって道路が水浸しになる事故が起きました。いずれも設置から60年を超えた排水管でした。千葉でも、2月に大網白里市で水道管破裂と道路陥没が起きています。

老朽化した水道管はどこにでもあります。上水道管は比較的浅い位置に埋まっているのですが、下水管は上水より深い位置に埋まっていて、なかなか点検もままならず、お金もないし、放置されているものが多いようです。いつ、どこで、大事故が起きても不思議はない状況、どうするんだろう、と思ってしまいます。

そういう意味では、下水のないいすみでは、陥没事故は起きにくいかもしれませんが。


最後にちょこっと水知識。硬水と軟水について。


水の硬度というのは、水中のカルシウムとマグネシウムの量を表す指標です。炭酸カルシウムに換算します。(これはアメリか硬度と言います。日本やWHOではこれを使用。他に酸化カルシウムに換算するドイツ硬度もある。)

WHOでは0~60㎎ / Lを軟水、60~120㎎ / Lを中程度の軟水、120~180㎎ / Lを硬水、180㎎ / L以上を非常な硬水といいます。日本では0~100㎎ / Lを軟水、101~300㎎ / Lを中硬水、301㎎以上を硬水としています。日本の水道水は地域差はありますが、平均で48㎎程度で軟水と分類されます。硬度1位の千葉は78㎎、2位埼玉70㎎で多少硬度高いですが、軟水の範疇です。

ミネラルウォーターとして売られているエヴィアンは304㎎で硬水です。


水の硬度を決めるのは地質環境です。ヨーロッパでは石灰岩が多く、河川や地下水にミネラルが多く溶けだすので硬度が高くなる。日本では河川が短く流れが急なので、水が岩や土に触れている時間が短く、溶け出すミネラルが少ないので、水の硬度は低くなると考えられます。


硬度が高いほど石鹸が泡立ちにくくなり、お肉が柔らかくなります。逆に軟水では石鹸が泡立ちやすく、お茶や紅茶をいれるのに適しています。

日本のお水、おいしいですよね。

お茶もコーヒーもお料理も、おいしいのは水のおかげ。

おいしい水がいつでも使えるのはとても幸せなこと、大事にしなくっちゃね。

この幸せが長く続くことを願わずにはいられません。(2025年5月25日 水野佳)






 

2025年4月29日火曜日

ガスの話。

近々ガス給湯器を取り換えることになったのを機に、改めてガスについて調べてみました。そのことを書いてみます。


東京に居たころはずーっと都市ガス・東京ガス、それが当たり前でした。都市ガスが自由化されてガス会社が選べるようになったのは2017年のことです。それでも都市ガスについては選択肢はあまりありません。関東だったら東京ガスの他はレモンがスとニチガスくらいです。


一方プロパンガスの自由化は、それよりも20年も早く、1997年から自由化されています。選択肢もたくさん、全国のガス会社は17600以上あり、価格も自由化される前から自由料金制、価格幅も大きい。千葉県には600以上のプロパンガス会社があり、値段も相当違います。

引っ越しが決まった時、不動産屋さんに希望のガス会社はありますか?と聞かれ、プロパンなんて全く知らないし、何を問われてるのかもわからなくて、お任せします、とお願いしました。実は不動産屋さんが手配してくれたガス会社が結構高いほうだったことを知ったのは、だいぶ後になってからでした。

 まず、都市ガスとプロパンガスの違い。

そもそも原料が違います。都市ガスは液化天然ガス(LNG)を原料とし、メタンが主成分。プロパンガスは液化石油ガス(LPG)を原料として、主成分はプロパンやブタン。

都市ガスは地下のパイプラインを通じて供給されるので、いつでも使える。プロパンガスはガスボンベを設置してそこから使い、定期的にボンベを交換する必要があります。

火力はプロパンの方が強い。都市ガスは1㎥あたり熱量10,750kcal なのに対して、プロパンは1㎥あたり24,000kcal 。一般に都市ガスの方がプロパンガスより安いと言われています。

ガス燃焼時に発生する二酸化炭素の量は都市ガスの方が少ないので環境に優しいと言われます。おもしろいのは、都市ガスは軽いのでガス漏れの時には上に上がるからガス漏れ警報器は天井に付けるのに対して、プロパンガスは空気より重くて床にたまるので、警報器は床に設置するということ。そういえばうちも警報器、台所の床に置いてあります。

へーぇって感じです。


でもね、都市ガスは誰もが選べるわけじゃない。都市ガスが使えるのは、日本全国の面積のわずか6%しかありません。例えば関東では、この地図のように、ガスの導管が設置されているところはこれだけ、東京を中心にした一帯です。千葉県でも、東京に近いエリアが中心で、千葉市内でさえ都市ガスは使えないところもある、ましてや外房エリアは都市ガスほとんどありません。


実は、千葉県には、日本有数の水溶性天然ガス田があって、生産量、埋蔵量ともに日本最大規模だそうです。それなのに、その天然ガスはみんな首都圏に行ってしまって、お膝元の千葉では使えないって、何だかなぁ…って思いますが。千葉の水溶性天然ガスの可採埋蔵量は約3500憶㎥、現在の年間生産量は4.6憶㎥nで約800年分あるそうです。すごいですね。


天然ガスは脱硫、脱酸素処理をしてから-162℃に冷却し液化されます。体積は1/ 600となって大量輸送が可能になり、港近くのLNG工場に貯蔵された後、海水による加温により天然ガスに戻します。千葉にある東京ガス袖ケ浦工場は世界最大のLNG受け入れ基地かつ専用工場だそうです。


一方LP ガスの原料となるプロパン、ブタンは油田(石油)や天然カス田の内部に、メタンなどの他のガスと混在しています。それを分離、回収し、不純物を取り除い取り除いて精製し、低温で液化して液体LPガスとして輸送されます。

日本で消費されるプロパンガスの75%は輸入に依存し(輸入先は68%がアメリカ)、25%が国内で原油精製時や化学製品の生産時に発生する分です。

世界で生産されるLP ガスは原油からが30%、天然ガスからが30%、石油精製過程からが40%ですが、日本ではほとんどが石油精製過程からだそうです。


価格について。

プロパンガスは都市ガスより高いと言われています。実際のところどうなのか。ネットで調べると、プロパンガスは基本料金が1700~2000円、従量料金が1㎥あたり700円前後となっていますが、一筋縄ではいきません。会社によって違うだけではなくて、いろんな条件で変わってくるし、個別にも違うみたいだし。


うちはプロパン大手のNガスです。引っ越して数年後、Nガスの営業の人が来て、検針票を見せたら、「これは高すぎるから、うちでなくてもいいから変えた方がいい」と言われて変えました。

コーヒーの焙煎機をガスに変えた時、焙煎小屋(元物置…写真の左奥のドアが焙煎小屋の入り口、ボンベの横が勝手口で入ると台所です)にガス栓を設置するのも無料で工事してくれました。うちの2025年3月の料金は10956円(基本料金1650円、従量料金1㎥あたり389.4円で23.9㎥使用)平均より安いとおもいます。


同じ量を都市ガスだったら約4900円(東京ガスの早見表による計算)、でもカロリーが倍くらい違うので消費量を倍の48㎥で計算すると約8800円となりました。

都市ガスも基本料金プラス従量料金で計算しますが、常に変動しているし、なんかいろいろ条件があって…ガス代って難しい。ただし、都市ガスの方が安いことは確かです。でも、前にも書いたけど、都市ガスは都会の人以外は選べないんだからどうしようもない。


プロパンガス、メリットもあります。

第一は災害時に強いこと。都市ガスはガス管が壊れたら復旧までに時間がかかります。プロパンではボンベと設備があればすぐにガスが使えます。それと火力が強いこと。前述したように、1㎥あたりのカロリーは都市ガスの倍以上ある。なので、都市ガスのエリアでも、火力の必要な飲食店など(中華屋さんとか)では、プロパンガスも入れているところが結構あります。うちみたいなコーヒーの焙煎やってるところも、焙煎用にプロパン入れてたりします。


都市ガスが使えるのが普通だった私ですが、それは全然普通じゃないって外房に移住して気付きました。地方にお引越しする方も、都市ガスがあるところなんてたったの6%しかないということを覚えておいてください。そしてプロパンガスの場合、価格に倍くらいの差があるので、とりあえず調べてからガス会社決めた方がいいですよ。余計なおせっかいかな。


ガスの話でした。(2025年㋃29日 水野佳)






2025年3月29日土曜日

谷川俊太郎さんを悼む

「みみをすます」

私にとっての谷川俊太郎の原点のような本です。1982年出版の朗読のための長編詩。6篇の詩が収録されていて、今なおロングセラーを続けています。若いころ演劇に関わった私は、声に出して何度となく読みました。


『みみをすます きのうのあまだれに みみをすます みみをすます いつから つづいてきたともしれぬ ひとびとの あしおとに みみをすます…』で始まるこの詩、途中に1か所だけ()に入れられた部分があって、ドキッとさせられます。

『(ひとつのおとに ひとつのこえに みみをすますことが もうひとつのおとに もうひとつのこえに みみをふさぐことに ならないように)』そしてそのすこし後に続くのは『みみをすます せんねんまえのいのりに みみをすます…』

私の中に鮮烈な印象が残りました。


昨年、2024年11月13日、詩人の谷川俊太郎さんが亡くなりました。92歳。老衰で。

カフェ炎の雫に昨年から設置したささやかなブックスペースに、私が持っている谷川俊太郎の本たちを並べています。年末から第1弾、3月に入って第2弾。詩集や詩画集、絵本、翻訳‥など。一体どれくらいあるんだろうと思うほどの膨大な仕事をしています。大学にも行ってないし、手に職もないので、来る仕事でできるものはなんでも受けたのだそうです。


私は谷川さんが好きで、折に触れて気になる本を買い集めていたのですが、今回並べてみて、こんなに持ってたんだ、と改めて思いました。


谷川俊太郎は1931年(昭和6年)東京都杉並区に生れました。父は哲学者で法政大学総長、母は衆議院議長の娘。1952年21歳の時、詩集「20億光年の孤独」でデビュー。父の友人であった詩人の三好達治に創作ノートを見せたのがきっかけでした。それ以降、詩作のみならず、歌の作詞、脚本やエッセイ、評論活動も行いながら絵本も作り翻訳も手掛けて、まさに現役で活躍し続けた人生でした。

(鉄腕アトムの歌が谷川俊太郎の詩だって知ってましたか?)


自身は3度の結婚をしています。1度目は詩人の岸田襟子さんと、これは1年ほど。2度目は女優だった大久保知子さんと、これは30年以上の期間に及び、お子さん(谷川憲作)も生まれました。後年、憲作さんは音楽家となり、俊太郎さんの詩との共演活動を行っています。3度目の結婚は1990年に絵本作家の佐野洋子さんと。あの有名な「100万回生きたねこ」の作者です。結婚生活は6年ほどで解消されましたが、佐野洋子さんの息子広瀬玄さんと谷川さんの交流は離婚後も続きました。というか谷川さんの言葉と広瀬さんの絵で出てる本が何冊も有ります。

恋多き人生、自分に正直だったのでしょう。それに選ぶ相手がさもありなんという方ばかり、やっぱりちがいますね。


詩以外の谷川俊太郎さんの仕事でまず浮かぶのは「PEANUTS」の翻訳。1969年から2020年まで、50年も。本人はあまり好きではなかったけど、他人の訳を見ると腹立たしくなったり、紆余曲折しながら続けたそうです。


マザーグースの翻訳も手掛けました。わかりやすくて、リズミカル、いかにも訳しましたって感じは全然ない。他の人の翻訳と読み比べてみてもおもしろいです。

マザーグースから生まれた「ゆくゆくあるいてゆくとちゅう」という絵本があります。エチエンヌ‣ドゥルセール作、谷川俊太郎訳、1989年。不思議な本です。

ジョン・バーニンガム作「ALDO わたしだけのひみつのともだち」も人には見えないともだちとの不思議な関係を描いた絵本。1991年。短いことばはおてのもの。


翻訳絵本も有名なのがたくさん。

レオ・レオニ「スイミー 小さなかしこいさかなのはなし」1963年、日本では1969年に谷川俊太郎訳で出版。ロングセラーです。小学校の教科書にも載っています。

ひとりだけ黑いスイミーはおそろしいまぐろに仲間を食べられてひとりぼっち。でも素敵な生き物たちに出会って元気を取り戻し、小さな赤い魚たちが大きな魚のふりをして泳ぐことを考えつき、自分はその中の目になって、おおきなさかなを追い払うことに成功します。

集団は苦手という谷川さんは、みんなで力を合わせて大きなさかなを追い出すことに感情移入はしないけれど、スイミーが目になるというアイデアがおもしろいと言っています。

レオ・レオニの絵本でもう一つ、「フレデリック~ちょっとかわったねずみのはなし」。フレデリックは寒く暗い冬の日のために、おひさまのひかり、いろ、そしてことばを集めます。冬になってそれがどう役に立ったか、読んでみてください。

谷川さんがレオ・レオニの絵本を翻訳するとき、一番大切にしたのが視覚的な美しさ、レイアウトを損なわないように心掛けたそうです。

「ことば」なのに「絵」が優先、ちょっとびっくりします。


谷川さんは小さな子供向けの本から大人のための絵本と言ってもいいような本まで、多彩な絵本を翻訳しています。大人向けなら、例えば「悲しい本」マイケル・ローゼン作、クェンティン・ブレイク絵、谷川俊太郎訳。2004年。

その中から。『悲しみがとても大きい時がある。どこもかしこも悲しい。からだじゅうが悲しい。』


マーシャ・ブラウンの「目であるく、かたちをきく、さわってみる。」2011年。言葉と写真はマーシャなのに、まるで谷川さんが書いているような。

『みること それは 目で あるくこと あたらしい せかいへと。ゆっくり あるこう こころを いろんなものに ぶつけながら いろんなものに くすぐらせながら。』


谷川俊太郎が言葉を書いて誰かが絵を描いて作った本も多数あります。真っ先にあげられるのが「もこもこ」絵は元永定正。(実はこの本は持ってない、読み聞かせでやってことはあるのだけれど。)「もこ」「にょき」「ぱちん」「ぽろり」谷川さんの奇妙な言葉が並びます。これがなぜか、ちいさな子供たちに大うけです。今思ったのだけれど、ミロコマチコさんと似てる、あそうか、彼女が谷川さんの影響を受けてるのか。


谷川俊太郎さん、そうそうたる作家たちとコラボしています。長新太とは「わたし」「あなた」「めのまどあけろ」「にゅるぺろりん」とか、たくさんの絵本を作っています。和田誠とは「これはのみのぴこ」「ともだち」「いちねんせい」「がいこつ」…。安野光雅もあったり、どれだけ本出してるんだって感じです。


詩画集もたくさんあります。詩やことばに絵や写真を組み合わせて一つの世界を作り出す、とても素敵な本がいっぱい。私の大好きなジャンルで、気が付けばそれなりの数持っていました。

一番好きなのは「青は遠い色」1996年、絵は堀本恵美子。言葉は谷川俊太郎の詩からの抜粋。例えばこのページ、デビュー作の詩集「二十億光年の孤独」から『万有引力とは 引き合う孤独の力である 宇宙は歪んでいる それ故 みんなは もとめ合う』という一節に、青を基調とした絵が添えられています。(3つ下にこの本の表紙の写真あり)


クレーの絵に言葉を添えた2冊もとても好きです。「クレーの絵本」1995年と「クレーの天使」2000年。アート&ポエム、響き合う絵と言葉の贈り物というコンセプトでクレーの絵に谷川俊太郎が言葉を書下ろした本。時折手にとって眺め、詩を読む、ものすごく豊かな気持ちになれます。


「クレーの絵本」より。

≪黄金の魚≫という絵に添えられた詩から。

『いのちはいのちをいけにえとして ひかりかがやく しあわせはふしあわせをやしないとして はなひらく どんなよろこびのふかいうみにも ひとつぶのなみだが とけていないということはない』


「クレーの天使」より。≪天使、まだ手探りしている≫に添えられた詩から。

『わたしのこころにごみがたまっている でもそこにもてんしがかくれている つばさをたたんで…わたしにもみえないわたしのてんし いつかだれかがみつけてくれるだろうか』


写真集に詩を添えた「あさ」「ゆう」。2004年。写真は吉村和敏。

「ゆう」の中の「祈り」という詩の後半部分を。

『人々の祈りの部分がもっとつよくあるように 人々が地球のさびしさをもっとひしひし感じるように ねむりの前に僕は祈ろう 1つの大きな主張が 無限の時の突端に始まり 今もなお続いている そして 一つの小さな祈りは 暗くて巨きな時の中に かすかながらもしっかり燃え続けようと 今 炎をあげる』


この詩の前半部分で谷川さんはこう言っています。『(ああ 傲慢すぎる ホモ・サピエンス傲慢すぎる)』…まさにその通り!


2006年の小さな詩集「すこやかに おだやかに しなやかに」は、谷川俊太郎さんの一つの到達点のようなもの。シンプルに、人が生きること、どうあるべきかということが語られています。この詩集は、原始仏典「ダンマパダ」の英訳を基底にして、共感するところを自由に日本語にしたものです、と谷川俊太郎は述べています。


最初の詩「こころの色」より。

『私がなにを思ってきたか それがいまのわたしをつくっている あなたがなにを考えてきたか それがいまのあなたそのもの 世界はみんなのこころで決まる 世界はみんなのこころで変わる』

「すこやかに」より。

『生きるのは喜び 生きるのは愛 憎み憎まれる 人々のあいだに生きても すこやかに生きよう たとえ苦しみのうちにあっても』


「おだやかに」より。

『怒りが閉ざす こころを閉ざす うぬぼれがしばる こころをしばる おだやかにあれ こころよ のびやかに しなやかに はれやかに』

「もっと向こうへ」より。『世界をありのままに見るために 目覚めよう 間違った夢から この世界のもっと向こうへと続く道がある 喜びとともにその道をたどろう』


到達点?いえいえ、まだまだ先がありました。

谷川俊太郎は死ぬまで詩人でありました。


辞世のともいうべき詩

『目が覚める 庭の紅葉が見える 昨日を思い出す まだ生きているんだ 今日は昨日のつづき だけでいいと思う 何かをする気はない どこも痛くない 痒くもないのに感謝 いったい誰に? 神に? 世界に?宇宙に? 分からないが 感謝の念だけは残る 』


(最後の詩集「ベージュ」死後に出版。ベージュは米寿でもある。)


最後に。

「あなたに(三つのイメージ)」という詩の一節を。

谷川俊太郎の出身校である都立豊多摩高校で、1968年に卒業生の求めに応じて書かれ、現在に至るまで毎年卒業式で読み継がれているものです。「魂のいちばんおいしいところ」という詩集に収録されています。

(実は私は豊多摩高校のお隣の杉並高校の出身、当時は学校群制度で振り分けられるシステム、本当は豊多摩に行きたかった私にはなんだか近しく感じられます。)


3つのイメージ(火と水と人間)の人間の部分から最後にかけて。


  人間は一瞬であり 

  永遠であり 

  人間は生き 

  人間は心の奥底で愛し続ける

  ーあなたに 

  そのような人間のイメージを贈る  


  あなたに 

  火と水と人間の 

  矛盾にみちた未来のイメージを贈る 

  あなたに答えは送らない 

  あなたに ひとつの問いかけを贈る


旅立ちの季節です。(2025年3月29日 水野佳)















初夏の旅~奈良から大津へ

  新緑の美しい初夏の奈良から大津を旅してきました。今回の旅の目的は、特別公開の仏像を見ることと、今まで行きたいと思ってたけどまだ行っていないところに行くこと。 順にご紹介していきましょう。 (今回の旅の目的の一つは特別公開ですが、公開される仏像はほぼすべてが撮影不可です。なので...