アンリ・マティスは20世紀を代表するフランスの巨匠。色彩の魔術師とも呼ばれ、フォーヴィスム(野獣派)の生みの親でモダンアートの誕生に寄与。彼の84年の生涯は、色彩と光の探求に捧げられた壮大な実験と言えます。世界最大のマティス・コレクションを有するパリのポンピドゥーセンターの協力による日本では20年ぶりの回顧展。これは代表作「金魚鉢のある室内」(ポストカードの写真)
ここ最近、いろんな美術番組で軒並み特集されていたのでなかなかの盛況。でも日時指定予約制なので大混雑ではありません。展覧会は8章構成。1章は「フォーヴィズムに向かって 1895~1909」マティスの画家としてのスタートは象徴主義のモローのアトリエから。大胆な色彩と筆致によるフォーヴィスムから、平面的で装飾的な画面構成を始めるまでの作品たち。
日本初公開の「豪奢、静寂、逸楽」も展示。
「ホットチョコレートポットのある静物」(ポストカードの写真)
キュビズムの影響から抽象化という造形的な実験へ。
何といっても、これ「白とバラ色の頭部」、最もキュビスム的作品、各美術番組でも必ず紹介されています。うちの夫はこれが見たくてこの展覧会に来たそう、なるほどねと思いました。(これもポストカードの写真です、このフロアーは撮影不可でした)
有名な「コリウールの窓」や冒頭に掲げた「金魚鉢のある室内」もこの章にあります。私はここらのマティスが一番好きかな。
4章「人物と室内 1918~29」
マティスは、絵画のアイデアが模索されている転換期に彫刻を作っていたようです。
これは4章の「石膏のある静物」。4~6章は撮影可なので私が撮った写真です。
1930年代、マティスはアフリカやオセアニアを旅して、新しい光と空間に触れながら豊かな造形上の探求を繰り返します。
これは「座るバラ色の裸婦」抽象化されたようなどこか幾何学的な形に柔らかな色彩、心惹かれます。
5章には、マティスのアシスタント兼モデルとして死の時まで傍にいたリディア‣デレクトルスカヤの眠る姿を描いた「夢」も展示されています。
戦争、病気、高齢のためヴァンスに居を移したマティス。
この章は彼の集大成ともいえる作品が並びます。
この展覧会のポスターにもなっている「赤の大きな室内」。
マティスの色彩に関する仕事が凝縮された作品と紹介されています。
デザイン性もあって居心地のいい作品ですね。
こちらは「黄色と青の室内」。
赤の室内と対をなす作品ですね、並べたくなります。赤なら赤、青なら青を基調として、その中に効果的に別の色を置いていく。流石です。
この時期、ドローイングや本の挿絵、美術文芸誌など、多彩な仕事を手掛けています。
7章からは再び撮影不可。実はこれは6章に合った雑誌。7章にある切り紙絵の基になってると思うのでここに置きました。
マティスと言えばジャズ、イカロス版画シリーズ、見たことある人多いんじゃないでしょうか。
そして8章は「ヴァンス・ロザリオ礼拝堂」でした。マティスが生涯の集大成として建物、装飾、オブジェ、家具、衣装に至るまですべてデザインした礼拝堂関連の展示と映像でした。
う~ん、ここに辿り着いたのか。
マティスの生涯=挑戦と実験だったのだなぁと思いました。
マティス展に先立つこと2週間余、6月上旬にアーティゾン美術館に行きました。ブリジストン美術館がアーティゾン美術館に変わったのが2020年1月、ずーっと行きたかったのですが、やっと行けました。
「ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開~セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ~」という展覧会。これ、すごーく面白かったです。個人を辿るのではなく、絵画の展開を追っていく。たくさんの作家の同じ系統の同じ時代の作品を見る稀有な体験。知っている作家も知らない作家もいる。感性をフル稼働させて、ただただどれに惹かれるかだけで見ていく。とても刺激的、たくさんの発見がある。
ここからは、私の琴線に引っかかった作品を呈示していきます。(この展覧会は写真撮影可と不可がごちゃごちゃなので、撮影できたものだけですが。)
「自らが輝く」ヴァシリー・カンディンスキー、1924年。
section 3 抽象絵画の覚醒ーオルフィスム、未来派、青騎士、バウハウス、デ・ステイル、アブストラクシオン=クレアシオン より。
section 1 抽象芸術の源泉 より。
「神秘の語らい」 オディロン・ルドン、製作年不詳。
セクション1は他に、エドゥアール・マネ、ポール・セザンヌ、フィンセント・ファン・ゴッホ、ポール・ゴーガンなど、巨匠ずらり。
section 2 フォーヴィスムとキュビスム より。
「セレの街の屋根」 ジョルジュ・ブラック 1911年。
セクション2には他に、モーリス・ヴラマンク、アンドレ・ドラン、ラウル・デュフィ、ジャン・メッツァンジェなど。
section 2 より。
1913年。
ピカソは4点あって、これは油彩に砂と新聞紙を使ったもの。
他に撮影不可の水彩の作品もなかな魅力的でした。
「手袋をした女」 アルベール・グレーズ 1922年頃。
こういう具象と抽象の間みたいのが好きかも。
セクション2には、あのマティスも2点展示されていました。
section 3 抽象絵画の覚醒 ーオルフィスム、未来派、青騎士、バウハウス、デ・ステイル、アプストラクシオン=クレアシオン より。
1919年頃。
このセクションには、かなりたくさんの作品があります。
クレーはとても好きな画家です。クレーの絵と谷川俊太郎の詩のコラボ「クレーの絵本」は大好きな本で、折に触れて眺めています。「クレーの天使」というのもあります。
「砂丘」 ピート・モンドリアン 1909年。
点描だ。
ロベール・ドローネー、ジャック・ヴィヨン、フェルナン・レジェ、ガルシア、などと私にはあまりなじみのない名前の中に、ル・コルビジェなんてのもありました。
オキーフ好きです。
ここまで、みんなセクション3です。
私の好きなカンディンスキーも、絵画数点とバウハウス系の書籍も。
ここらで気づきました。バウハウスとか青騎士とかの系列、好きなんだと。
section 4 日本における抽象絵画の萌芽と展開 より。
「無題」 古賀春江 1921年頃。
古賀春江はずっと気になっている人です。
他に、岡本太郎や長谷川三郎もありました。
section 5 熱い抽象と抒情的抽象 より
「水に沈んだ都市」 ザオ・ウーキー 1954年。
なぜか青に惹かれる傾向があります。
「赤い鬼」 菅井汲 1954年。
汲さん、男性です。
これね、じーっと見てるとおもしろいの、ずーっと見てられます。
section 9 具体美術協会 と section 10
「夜の女と鳥」 ジョアン・ミロ 1944年。
ピエール・マティスはアメリカの美術商でアンリ・マティスの末っ子。ミロをはじめとする前衛画家たちを支援しました。ミロの他、デュビュッフェ、デュシャンの作品のある小さなコーナー。
私、ミロも好きなんです。
section 7 抽象表現主義。ジャクソン・ポロックとかクーニングとかロスコとかあるけど、この辺になるとあまり好きじゃない。
section 8 戦後日本の抽象絵画の展開(1960年代まで) より
「無題(無限の網)」草間彌生 1962年頃。
草間さんは外せない、なぜかとても心惹かれます。どうしてなんだろう。
滝口修三と実験工房 はささっと通り過ぎ、section 11 巨匠のその後 も歩き過ぎて。
section 12 現代の作家たち。
その中から 「Reflection p-10]
鍵岡リグレ アンヌ 2023年。
縦2m、横6mを超える大作。横から見たら立体みたいに絵の具が盛り上がってる。
「Untitled」婁正綱(LOU Zhenggang) 2022年
これは横8mを超える作品。圧倒されます。
大きいってだけで、見る方もエネルギーが必要です。
「View , Water , A Twig」 津上みゆき 2023年。
この作家さんの作品、15点ほど並んでました。
いい色合いです。
ABSTRACTION 全12セクション、264点!圧巻の展覧会です。
これ丁寧に見てたら大変なことになるので、とにかく直感で、これ好き、これはいいや、と選別し、好きと思ったらちゃんと見たり、プレート読んだりする方式で鑑賞しました。とても面白い体験でした。この展覧会見て、私は抽象と具象の間が好きだと気付きました。抽象になってしまうとよくわからなくて、見たものをそのままではなく、その人が思うような形、感じた色に変えて描いた作品に惹かれるようです。
マティス展は夫と行きましたが、アーティゾン美術館に一緒に行ったのは久しぶりに会う女友達。気心の知れた仲。彼女は「眠っていた五感が目を覚ました」と言ってました。鑑賞後のランチとおしゃべりもとっても楽しかった!
時にはこういう時間必要ですね。
マティス展は東京都美術館で、ABSTRACTIONはアーティゾン美術館で、どちらも8月20日までの開催です。ぜひ行ってみてください。 (2023年6月29日 佳)