2020年9月27日日曜日

「やさしくなあに」

先週、都内のミニシアターで、「やさしくなあに」というドキュメンタリー映画を見てきました。行ったのは、シネマチュプキタバタという超ミニシアター、時折行かせていただいています。もともと客席数が20ちょっとなのに、このコロナで1回の上映で限定10人。感染対策を取りながら営業を続けています。そんな中ですが、上映後に監督さんのお話まで聞けて、久しぶりの外出はとても有意義なものになりました。

 

「やさしくなあに」は、てんかんと知的障がいをもつ奈緒ちゃんの日常を撮った映画です。8歳の時から実に35年もの間の記録。学校に通う彼女が、卒業し、地域の作業所に通い、家を離れてグループホームに入って…その間の奈緒ちゃんと家族、周囲の人たちの日々を描いています。監督は、伊勢真一さん、奈緒ちゃんは監督のお姉さんの娘、姪です。

 

奈緒ちゃんシリーズは全4作、奈緒ちゃんが8歳から成人式を迎えるまでの記録「奈緒ちゃん」、お母さんと仲間たちが地域作業所ぴぐれっとを起ち上げる過程と仲間たちの日々を描いた「ぴぐれっと」、30歳を超えた奈緒ちゃんのグループホームへの自立と家族の葛藤の記録「ありがとう」。そのほかに奈緒ちゃんと作業所の仲間たちの沖縄旅行を撮影したものもあります。奈緒ちゃんはいつも明るく元気で、周りの人たちを心和ませる存在、彼女がいるからみんながつながっていく。家族の中でも同じです。家族それぞれの悩み、それを乗り越えていくために奈緒ちゃんが果たす役割はとても大きいことに、みんなが気が付いています。

監督曰く、「元気な奈緒ちゃんと、時々元気でなくなるお母さんと、時々元気でなくなる弟、時々元気でなくなり酔っぱらうお父さん。この人がいなければ生きることさえ難しかったなあということが出ている。」この映画は、家族の成長の物語でもあります。

 

奈緒ちゃんはおしゃべりが好き、人が好き、天真爛漫でやさしくて常に前向き。ある時、お父さんと弟がけんかしていると、「けんかしちゃだめだよ、やさしくなあにって言わなくちゃ」と言い出して、それからは誰かと誰かが言い争いをするといつもそう言って、周りのみんながその言葉を日常的に受け入れるようになっていったそうです。

 

シリーズ3作の後4作目の「やさしくなあに」をまとめた監督の思いを、上映後に聞くことができました。それには、20167月に起きた津久井やまゆり園の事件が大きく関係しています。やまゆり園の事件では重い障害を持つ人が19人殺され、26人もの人が傷つけられました。監督は、ひどいなと思った、でも犯人は社会が生み出したものと言います。そういう考えの人がこの社会から生まれていることにショックを受けたと。そして、自分にできることは何かと考えた時、障がいのある人が、普通に生きていること、どうやって人と関わり、どういう影響を与えているのか、それを知ってもらうことだと思い、この映画を新たに作ったそうです。

(映画の中で、奈緒ちゃんのお母さんも同様の発言をしています。私たちは運よくそういう考えの人に会わないできたけど、障がい者は嫌だなと思っている人がたくさんいるんだよね、社会がそういう人を生み出しているんだよねと)

やまゆり園の事件では、犯人が職員さんにしゃべれるかどうか聞いて、しゃべれないという人を殺していったと言います。それに気づいた職員さんがしゃべれますと言い続け、おかしいと思った犯人が自分で話しかけ答えがなければ刺したと言います。凄惨な事件です。それもたった数年前のことなのです。最近犯人の死刑判決が出ましたが、当然ながらそれで終わりではありません。こんな人を生み出した今の日本の社会について、深く考え続けなければならないと思います。

 

監督は言います。この映画は “命のこと” を描いている。役にたたない命などないということを伝えたい。コロナの今、問いを深めていくいい機会なのではないか、自分の命だけに向かうのではなく、命のことを考えてほしいと。

 

私がこの映画を見に行ったのは、身近に奈緒ちゃんと同じように知的障がいとてんかんを併せ持つ人がいるからです。彼との付き合いはもう10年、東京に居る時、障がいのある中高生の放課後活動の仕事をしていた時からです。初めは障がいについてほとんど知らなかったので、彼らについて知りたいと勉強し、どうしたら一緒に居て安心してもらえるようになるのか、考えつつ試行錯誤してきました。好きになってもらえたかなと思えるようになるまでにはずいぶんかかりました。高校卒業後、作業所に通う彼らとお昼ご飯を作って食べる会を始めました。自閉があったり、言葉が話せなかったり、自傷行為があったりと、奈緒ちゃんよりも少し重い障がいの人もいます。でも、純粋で意地悪なところは少しもなくて、それぞれに魅力があります。その中で、気付いたのは、彼らといる時間に実は自分が癒されているのではないかということ。伊勢監督の「僕自身も奈緒ちゃんに救われてきた」という思いと重なります。奈緒ちゃんのお母さんも、意地悪な子にならなくてよかった!と言ってるし、監督は撮影スタッフみんなが奈緒ちゃんの魅力にやられてしまうと言っていました。邪悪な世界に生きている私たちにとって、彼らは本当に魅力的なのです。

 

コロナで上映会もライブもままならない今ですが、いつか炎の雫でも、この映画を上映したいなあと強く思いました。

 

シネマチュプキでの上映は、伊勢真一監督バリアフリー作品特集上映という形で、寝たきり歌人遠藤滋さんと彼を介護する人たちを撮った「えんとこの歌」、レビー小体型認知症となった妻と向き合う医師の10年間の日々「妻の病」と「やさしくなあに」の3本を時間帯を変えつつ水曜日毎に3回上映する形でした。どれも見てみたい作品、機会があったらぜひ観たいと思います。伊勢監督はほかにもたくさんのドキュメンタリー映画を手掛けています。

 

もう一つ、障害にまつわる話。絵本のご紹介です。

「すずちゃんののうみそ」文:竹山美奈子 絵:三木葉苗 岩崎書店

 

この本は少し前にテレビで紹介されていて、ずっと欲しいと思っていて、やっと手に入れました。巻頭に、「この絵本は、言葉を話せない自閉症スペクトラムのすずちゃんの代わりにママが書いた、保育園のお友達と先生への、お礼の手紙です。」とあります。すずちゃんが保育園を卒業するとき、ママが、小さな理解者・支援者であるお友達にお礼を言いたい、みんなが首をかしげていたすずちゃんの謎・障害について説明したいと思い、

お手紙を書き、それを紙芝居にして読んだものが絵本になったものです。

 

この本、素晴らしいです。

帯に「自閉症のことがすーっとわかって、ちょっと身近に感じるお話です。」とありますが、その通り。自閉症について、ものすごくわかりやすく、特徴をとらえ、どう対するのがいいかも教えてくれる。そしてそれはどうしてなのか、説明してくれる。これなら子どもたちにもわかる。また自閉症のことを知らない大人にこそおすすめかもしれない。最後のところに、付録~自閉症の主な特徴~というのがあって、専門的な内容、例えば感覚過敏、常同行動、フラッシュバック、パニック、発達検査、療育等に触れ、対処法や自閉症の人の長所にも言及しています。

 

のうみその働きかたがちょっとだけ普通の人と違って、みんなとは違う指令が出る時があるんだよと言われれば、なあんだそうか、だからみんなと違うんだねって納得できますよね。

 

 

ママは、あとがきの中で、「障害じゃなくて個性だと言っていただくことはありがたいけれど、障害にはその特性ゆえのつらさが伴い、本人も家族も多くの努力や支援を必要としています。だからこそ、子供たちの、自分とは違うけど仲よくしよう、という自然な接し方が本当にうれしかった」と書いています。大人だと聞きにくい障害のことを屈託なく質問し、拍子抜けするほどすーっと受け入れる子どもたちに比べて、どうしても構えてしまう大人たちには、心のバリアフリーが必要です。そのためにも、この本はとても役に立つ、一人でも多くの方に読んでいただければと思います。そして、少しでも世の中がやさしくなるといいなと。

 

 

毎年、何回かは家の中で蛙に出くわします。

先日、窓際に置いた小さな植木鉢に水をやろうとしたら、植物の間に置物みたいに小さな蛙がいました。直径7センチほどの小さな鉢の中の小さな蛙、微笑ましくて写真撮りました。

 

秋めいて涼しくなってきたけれど、蛙の声はまだまだ聞こえています。(2020年9月27日 佳)

新生・炎の雫

「炎の雫」新しくなりました。 東ティモールコーヒーから自家焙煎コーヒーへ。コーヒーの銘柄を増やして、カフェでも飲めるし、豆の販売でもご購入いただけるようになりました。 ラインナップに加わったのは、タンザニア・コロンビア・メキシコ・グァテマラ・エチオピアシダモの5種類。 また、焙煎...