2022年7月28日木曜日

東ティモール独立20年

東ティモールは今年独立20周年を迎えました。

毎年5月に開催されている東ティモールフェスタ、そのプレイベントとして、5月14日に、東ティモールの人権活動家ジョゼ・ルイスさんとNGO パルシックの伊藤淳子さんの対談「東ティモールの人びとと共に 20年を振り返る」というオンライン企画がありました。その内容のご報告と東ティモールの現在について書きたいと思います。

ルイスさんは、独立以前の虐殺の時代から人権侵害を訴える活動にかかわってきました。1999年のインドネシアへの併合を問う住民投票では、事務所を民兵に襲撃され、投票に参加してそのまま国外へと逃げたそうです。78.5%という圧倒的多数で独立が決まった後、2002年5月の独立までの間、国連の暫定統治となり、500を超えるNGO が入り、国づくりを支援しました。以降ずっと、彼は人々を解放するために闘い続けています。問題は、虐殺などの直接的な人権侵害から、次第に経済的、文化的なものへと変化している、その間の世界の連帯に感謝しつつ、20年経ってこれからに期待しているとのこと。現在は、インドネシア軍によって連れ去られた子供たちの問題にも取り組んでいて、東ティモールと西ティモールの若者の交流事業を行っていたがコロナで中断している、そもそも同じなのに、インドネシアの侵略によって起こされた政治的な分断だと考えています。

(今、ウクライナでは、ロシア軍に連れ去られる人々がたくさんいます。西ティモールに連れ去られた東ティモールの子供たちの問題は、今後ウクライナとロシアでも起こってくることだと言えます。去年、東ティモール映画のオンライン上映で見た作品の中に、この問題に触れているものが複数ありました。一人の人の人生を変えてしまう、生きていくうえでいつまでも尾を引く、大変なことです。これから先、どれだけの人がそんな目に合うのかと思うと、暗澹たる気持ちになります。)

パルシックの伊藤淳子さんは、緊急支援時代の2001年から東ティモールに駐在、現在はパルシック東ティモール事務所の責任者です。現地の方と結婚し、お子さんもいます。独立当初、政府は「小さな政府」を目指し、教育と医療に重点を置きました。2007年に開発の方向へ転向。油田に依存してのばらまきに批判もありました。2012年、独立10年の振り返りでは、すべての人に教育を、は実現されておらず、子供が増えているのにそれに追いついていないが、保険・医療の分野ではある程度評価されたそうです。ただ命を落とすことは減ったものの、発育不良の子供が約半数いるとの調査報告がなされました。経済的には、10年で最も顕著だったのは、首都ディリの変化、10階建ての外務省ができ、エレベーターがついたが、電気が安定しない。道幅は広くなり、ディリから地方への道は整備された一方、地方は開発がなかなかで、都市と農村の格差が広がったと報告されたそうです。
それからさらに10年、伊藤さんはこの10年間、東テモールに居て日本のことを考えることが多かったと言います。教育面では、公立は中学校まで無料ですが、私立の学校では年間300ドルほどかかる、それでも先生の質の違いがあるため、お金を払える人は私立に入れたいとなる。ここでも格差が出てきています。きちんと教育を受けていない子は、ディリに出てもつける仕事がなく、出稼ぎに行く。ある日突然、農村部に豪邸が建ったりして、それは出稼ぎに行った人がお金を貯めて建てた家だということです。海外への労働力の流出を政府も抑えたいのだが、海外への農業留学やトレーニングに行ったまま帰ってこない例が多々あるようです。

(それにしても。10年ごとに振り返りをやって、政策の結果をきちんと評価し、それを次につなげていくという姿勢、日本も見習ってほしいものです。)

東ティモールの主食は、独立前はトウモロコシと芋でしたが、今はお米。人口が少なく市場が小さいこと、安価な輸入米が入ってくるようになったことで、自給率は低下しています。公用語はポルトガル語とテトゥン語。独立後、政治的に教育現場ではポルトガル語が義務付けられました。現地の言葉であるテトゥン語は、話す言葉で書き言葉として整理されていないとの理由でしたが、テトゥン語は抵抗する言語であるとの見方もあったというのは興味深いですね。
文化的には、元来の家父長制度と、ジェンダー平等・女性や子供の権利といった近代的な価値観が絶妙に同居していると言います。相続権や重要な決定、伝統しきたりを担うのは男性、女性は子供を産み育てる役割ですが、責任やプレッシャーが少ない分、女性たちは新しいことを学び、それを素直に楽しみ、習得した技術を大切に使い続けようという気持ちが強いと感じると伊藤さん。就学率の男女差はなく、国会議員の38%は女性、閣僚も女性15%。日本よりずーっと進んでいます。(日本は衆議院議員の女性率10%を切っています)そういえば、4月の大統領選挙でも、女性が何人も立候補していました。余談ですが、その大統領選挙で選ばれたのはラモス・ホルタ。独立以前の東ティモールのことを世界に知らしめる活動で、ノーベル平和賞を受賞し、シャナナの後の大統領もやった人物です。今回の選挙ではシャナナの政党から出馬し、決選投票の末大統領の座につきました。今でも独立の英雄たちの人気は高いようです。

伊藤さんは、20年を振り返って、変わらないものはティモールの人たちの幸せな笑顔だと言います。経済的に貧しくても、みんなが満たされている、国が自分たちを守ってくれるとは考えなかった人たち、自分で何とかする人たち、彼らの満たされた生活を目の当たりにして、東ティモールの方が安全で平和で、日本を離れてよかったと思うことが多かったとのことでした。

東ティモールのコロナ状況。

現在までのコロナ感染者22991人、死者は133人。(人口約135万人)今年7月以降の感染者はほぼ0。

2020年3月、初の感染者が確認され、大統領は30日間の非常事態宣言発令、教育省は全国一斉休校とし、教会でのミサも禁止されました。この時は拡大せず3か月後に緩和。

2021年4月、東ティモールにコロナ第一波が到来。インドネシアとの陸路を行き来する人々によってディリで市中感染が起こる。加えて豪雨災害で、支援のため越境制限が一部解除されたことによって全国に拡大した。政府の一時給付金や食料バスケットの配布もあったが、人々を救ったのは「助け合い」の心。困窮者を放っておけない人々が、お互いに助け合って乗り切ったのだと伊藤さんは言います。この時の波は秋に収まり、今年の2月に小さな波があって、現在に至っています。

さて、コーヒーの話です。
今、パルシックは、マウベシのコーヒー畑の改善事業に取り組んでいます。2019年11月から、5か年計画、ちょうど半分過ぎたところです。
コーヒーの木の収穫のピークは15~20年と言われていますが、東ティモールではほとんどの木が30年を超えていて、老朽化し、収穫量が減り、不安定。

古くなったコーヒーの木を若返らせる方法は2つあります。
1つは、台きり。木の幹を切り、切り口から生えてくる新しい芽を選別して2本だけ残して育てる。3年ほどで赤い実がつきます。もう1つは、新しい木に植え替える。良質なチェリーから種子を撮り、苗床に蒔いて、発芽したらポリバッグに移し替えて1年かけて苗を育てる。それを畑に植え替えて、2年ほどで収穫。この写真は、コーヒーの種から出た芽。そら豆の実から芽が出たところとそっくり、あれ、上下が逆かな。おもしろいですね。

その他、まるで自然林のようだったコーヒー畑を、等高線上に段々畑に整えたり、有機堆肥を与えて土壌改良したり。
3年目の今年は、240世帯のコーヒー農家が、コーヒー畑の改良に取り組んでいます。1年目から参加した農家は、3年経って収穫量が上がってくる頃。楽しみです。こんな風に、地道に手をかけて、東ティモールのおいしいコーヒーが日本に運ばれてくるのです。心して味わいたいと思います。

東ティモール独立20周年の記念日は5月20日でした。そのころいくつかの場所で「カンタ!ティモール」の上映会が開催され、炎の雫でも久しぶりの上映会を行いました。翌日、5月21日に上智大学で開催された東ティモールフェスタ。3年ぶりのリアル開催。各種のシンポジウム、食や物販、ライブなどがあって盛りだくさんの楽しいイベントです。私たちが参加したときは東ティモールのミュージシャン、エゴ・レモスが来て演奏し、最後にみんなでテぺを踊って、とても楽しかったことを覚えています。テぺはみんなで輪になって手をつないで大地を踏みしめて踊る踊り、新鮮な体験でした。今年のスペシャルライブはソウルフラワーユニオンの中川敬、「カンタ!ティモール」のエンドロールになっているのがアレックスが作った『マルシーラ』をソウルフラワーが歌ったバージョンであり、そもそも東ティモール独立記念のお祝いの時に広田奈津子監督が連れて行ったのがソウルフラワーという因縁あるミュージシャンです。広田監督や彼女の夫であり助監督でもある小向サダムさんも駆けつけて、素敵なイベントになったようです。いきたかったなあ。

「カンタ!ティモール」については、それ以降各地で上映の動きがあるようです。この夏は、高校生が企画しての上映会が複数予定されているとのこと。若い人が、カンタティモールのメッセージに感動して友達にも見てほしいと思い、自ら上映会を企画して監督を呼んで話をしてもらう、そんな嬉しい動きが起こっています。素晴らしいですね。大人たちも負けていられません。今年はまた動きたいという気にさせられます。

最後に、冒頭のルイスさんと伊藤さんの対談企画から、世界の平和への提言。
「市民運動の立場から連帯を示したい。国を超えた人と人とのつながりが、よりよい世界を作っていくことを信じている。」

1日も早く、世界に平和が訪れますように。 (2022年7月28日 佳)

*パルシックのホームページ、スタッフレポートなどを参考にさせていただきました。
 炎の雫ではパルシックから生豆を仕入れて自家焙煎しています。

*また、パルシックは東ティモールの子供たちの栄養状態改善のためにふりかけを作り、「東ティモールの子供に栄養たっぷりのふりかけ給食を」というクラウドファンディングを展開中です。8月31日まで。興味のある方は検索してみてください。







 

新生・炎の雫

「炎の雫」新しくなりました。 東ティモールコーヒーから自家焙煎コーヒーへ。コーヒーの銘柄を増やして、カフェでも飲めるし、豆の販売でもご購入いただけるようになりました。 ラインナップに加わったのは、タンザニア・コロンビア・メキシコ・グァテマラ・エチオピアシダモの5種類。 また、焙煎...