2023年10月29日日曜日

仏像に会う旅

 


奈良の仏像に魅せられて、折あれば仏像に会いに奈良を訪ねています。今回は往復切符を買って旅をしました。太東-奈良630km、600キロを超えるので割引あり、戻らなければ何度でも途中下車可、10日間有効。今回は、奈良から京都・米原経由で長浜に寄り道したかったので往復切符に。新幹線は特急券だけ買って、逸れた分はスイカで乗って、結構楽しい旅になりました。

今回は、東京の展覧会を含めると6体の十一面観音に会うことができました。国宝が2体、重要文化財が4体。その他にもいくつもの重文の仏像に会えて、とても幸せな旅でした。

これは渡岸寺の国宝十一面観音立像です。

*仏像はすべて撮影禁止なので、ポストカードやパンフレットからの写真です。

奈良に行く前に東京で寄り道。前哨戦として、東京国立博物館で開催中の「南山城の仏像」展を見ました。この展覧会、国宝、重文だらけの素晴らしい展覧会です。浄瑠璃寺の九体阿弥陀仏修理完成記念の特別展で、浄瑠璃寺から国宝3体、その周辺のお寺から重文12体。その中に重文の十一面観音が3体。この写真はそのうちの1つ、京都・木津川市の海住山寺の十一面観音菩薩立像です。平安時代(9世紀)の木造仏。重文。

この展覧会、鎌倉時代のものが少し混じっていますが、ほぼ平安時代のもの、9~12世紀に作られた仏像です。平安時代の仏像はお顔がいい、何とも言えない穏やかさがあります。南山城の仏像展は11月12日まで、東博本館特別5室にて。

南山城は京都とは言えほとんど奈良です。岩船寺と浄瑠璃寺は以前に訪ねたことがあります。大和路線の加茂駅から木津川コミュニティバスに乗り当尾の里山を歩いて辿り着いた小さなお寺に、光り輝く何体もの阿弥陀如来が置かれているのを見た時の驚きは忘れられません。今から思えば、あの時は修理の途中で、9体はそろっていなかったのですね。
浄瑠璃寺からは九体阿弥陀仏の1体の他、四天王の広目天と多聞天(この3体が国宝)重文の薬師如来、地蔵菩薩、岩船寺から普賢菩薩騎象像が出展されています。

これは京都・寿宝寺の千手観音菩薩立像。重文、平安時代。今回は千手観音にはこの1体しか会えませんでした。千手観音にはなぜか強く心惹かれます。

その夜は高円寺稲生座でライブ見て1泊し、翌日奈良へ。
その日訪れたのは、奈良市内の大安寺。日本最古の寺院の一つで、飛鳥の地で建立され、平城京遷都で現在の地に遷されて今日に至るという由緒あるお寺。今でも癌封じの寺として人々の信仰を集めています。奈良駅からバスで10分もかからない場所にありました。
このお寺の本尊、十一面観音立像。重要文化財。奈良時代、8世紀後半。秘仏。ですが10月~11月の特別開扉中で拝観させていただきました。右側の写真は同じく秘仏の馬頭観音像、こちらは3月のみの開扉。

十一面観音は深い慈悲によって衆生から一切の苦しみを取り去り、10種の現世利益と4種の来世での功徳をもたらすと言われる。頭部に11の顔を持ち、あらゆる方向を見守っていて、すべての人を救うとされています。
奈良時代から信仰されるようになり、多く祀られ、救済の観点からも人気が高かったと言われています。観音菩薩は、時と場所に応じて様々な姿に変化する能力(普門示現)を持ち、33の姿に変化するともいわれています。

大安寺には、讃仰殿という宝物殿があり、その中に、7体の重要文化財が収められています。いずれも奈良時代、8世紀後半の木造仏。
聖観音立像、楊柳観音立像。四天王立像(多聞天、持国天、増長天、広目天)。そして不空羂索観音立像。圧倒的な存在感。思わず息を呑み、見とれてしまいました。
中でも不空羂索観音は8本の腕を持ち、慈悲の縄(羂索)ですべての衆生を救いとる菩薩、堂々としていて安定感があり、実を委ねても大丈夫そうと思える仏様です。
だいたい、手が8本というのもいいかも、千本とはいかないまでも、普通より多いというのがいい。腕は後世に小ぶりに補作されたものらしいのですが。古い観音様は腕が長いのが多いので、そこから考えるともっと腕も大きかったのかもしれませんね。
それにしても、なんで異形のものに惹かれるんでしょうか。

翌日は桜井、談山神社から聖林寺へ。談山神社も仏像はないけれど重要文化財がたくさん。檜皮葺の十三重の塔など見所満載。山の気が感じられてとても素敵。あまりに心地よくてバス1本遅らせてゆっくり滞在しました。
その後、のどかな風景の中にひっそりとたたずむ聖林寺へ行きました。

聖林寺は小さなお寺。奈良時代712年に談山妙楽寺(現談山神社)の別院として建てられました。ここに国宝の十一面観音菩薩がいらっしゃいます。
この十一面観音は、大神神社(おおみわじんじゃ)の神宮寺「大御輪寺」の本尊だったもの。明治の神仏分離令によ影響で聖林寺に移されたのこと。長い間秘仏とされていましたが、明治20年にアメリカの哲学者フェノロサによって禁を解かれました。明治30年旧国宝制度が成立するとすぐに国宝に指定され、昭和26年に新制度になった時にも第1回の国宝に選ばれました。
760年頃、東大寺の像仏所で造られたという説が有力とされる天平時代の木心乾漆仏です。
2021年8月に新しい観音堂が完成、360度拝観可能となりました。
観音堂に上がるとまるで美術館のよう、アクリルケースに入れられ、どの角度からでも見えるようになっています。ぐるっと回って、前から後ろから、横顔も斜めからのお顔も、立って対し、座って下から見上げ、心ゆくまで拝観させていただきました。しかもこの時は私たち夫婦だけ、至福の時を過ごしました。
この観音菩薩は女性的な優美さと男性的な威厳を併せ持ち、すべてを超越した圧倒的存在感があるといわれています。和辻哲郎は「神々しい威厳と、人間のものならぬ美しさが現わされている。」と書き、白洲正子は「世の中にこんな美しいものがあるのかと、私はただ茫然と見とれていた。」と書いた聖林寺十一面観音。空間全体が何か霊的なもので満たされ、それに包み込まれ、時の流れが止まったようなこの感じ、大好きです。

奈良の3日目、飛鳥でサイクリング。本当はこの日も仏像に会うつもりだったけど、道に迷って壷阪寺に行き着けず。諦めてキトラ古墳と高松塚古墳へ。これはキトラ古墳の石室壁画、西壁の白虎と南壁の朱雀のポストカード。古墳っていうとずーっと古いのかと思ったけど、キトラ古墳は7世紀末から8世紀だそう、なんだ仏像と変わらないのね。

仏像に戻りましょう。
奈良から京都へ、琵琶湖線、北陸線で長浜へ。長浜が観音の里だと聞いてはいましたが、今回調べてみて湖北地方には民衆に守り継がれた多くの観音像が残されていると知りました。何度も戦場となったこの辺りは、仏像が焼かれたり奪われたりしないように、地面に埋めたり川に沈めて守ってきたそうです。
高月駅から徒歩10分の渡岸寺観音堂(向源寺)に、国宝の十一面観世音菩薩がおられます。のどかな風景の中、こじんまりとした美しいお寺です。

国宝十一面観世音菩薩。奈良時代(実際の制作年代は平安初期?)。檜一木造。日本彫刻史上の最高傑作とも国宝の十一面観音7体の中で最も美しいとも言われます。深い慈悲をたたえた表情、腰をちょっとひねった官能的なプロポーション、大きく作られた頭上面と配置、大きな耳飾りなどの特徴を備えています。
この観音様、実は十一面ではなく十面。また左右の一面ずつを頭の上ではなく耳の後ろに大きく表していて、まるで阿修羅の面みたい。普通の十一面観音とはちょっと違います。(この記事の冒頭に載せたお顔のアップの写真を見ると、分かりやすいかと思います。)
白洲正子は「湖水の上を渡るそよ風のような、優しく、なよやかなその姿」と書きました。

こちらは後ろ姿。面の大きさがわかります。大笑面って人の愚かさを笑い飛ばすってことかと思っていたけど、衆生の悪行に対する怒りを通り越した笑い、つまり怒っていることなのですね。真後ろにあるこの面はなかなか見られないけど、ここではぐるっと回ってみることができます。しかも聖林寺のようにケースに入っていなくてむきだしで置かれている。どちらも国宝、どちらも美しい。でもタイプが全然違う。なんていうんだろう、こっちの方が親しみやすくてありのままで受け入れられてる感じ。村人に守られ、村人と共に時を経てきた仏様だからやさしいのかもしれません。ここでは数組の拝観者と出会ったけど、やはりゆっくり滞在、堪能させていただきました。

観音堂の中には、大日如来像(重文)と阿弥陀如来像(滋賀県指定文化財)が安置されていました。ともに平安時代後期の作。
大日如来は通常少し厳しいお顔をなさっていますが、こちらのは大日如来にしては柔和な表情。その表情に心惹かれました。(この写真は向源寺のHP から)
向源寺のご本尊は、40cmほどの十一面観音立像(県指定・平安後期)、小さな像ですが繊細な造り。仁王門の金剛力士像は平安時代前・中期の数少ない像、こちらも県指定。
小さなお寺の中に、こんなに素晴らしい文化財があります。また、近くに「高月観音の里・歴史民俗資料館(KANNON MUSEUM)」があり、湖北の観音信仰文化についていろいろ学ぶことができました。

長浜には100以上の仏像があるとか。でも管理しているのが地域住民のところも多く、そう簡単には見られない。時々観音巡りのバスツアーがあるらしいので、今度参加してみたいものです。
最終日は琵琶湖クルーズを楽しんで、米原に戻り、新幹線で帰ってきました。この日新幹線は遅れていて、指定席取ってなくてよかった!自由席に乗って東京へ、千葉でも途中下車してごはん食べて、往復切符を存分に活用した旅でした。

今回は期せずして(?)十一面観音の旅になりました。
観音菩薩は概して女性的な感じを受けるものが多いけれど、男性でも女性でもない性別を超越した存在です。
菩薩は如来になるために修行中の仏様。悟りを開く前の王子だったころの釈迦の姿で現され、インドの貴族のゴージャスな姿をしているものが多い。
仏像ピラミッドでは、一番上が如来。真実を悟ったもの。阿弥陀如来、大日如来、薬師如来、釈迦如来など。二番めが菩薩、聖観音菩薩、十一面観音菩薩、文殊菩薩、私の好きな千手観音菩薩など。三番目が明王。叱りながら導く存在、相手を威圧する怖い顔、武器を持つ。不動明王、大威徳明王、愛染明王など。一番下が天部。仏教に取り入れられた異教の神々。四天王、十二神将、八部衆、吉祥天、弁財天など。金剛力士(仁王様)もここに含まれる。人間に近い姿で表され、男女の区別があったりする。大まかに、武人系、天女系、鬼神系に分かれる。(参考:JTB パブリッシング発行「るるぶ」「奈良仏像めぐり」)

国宝の十一面観音は7体、今回はそのうちの2つに会ってきました。他の5体のうち、京都の六波羅蜜寺、観音寺の十一面観音と奈良の法華寺の十一面観音はまだ見ていません。観音寺は通常公開されていますが、あとの2つは時期を決めての公開、なかなか見られないものもあります。できれば7体制覇したいものです。
国宝の仏像は全国に138件。(四天王など複数で1件となっているものもある。)そのうちの半分近くは奈良にあります。京都も多いけれど、奈良は京都の倍以上の76件。因みに奈良の国宝の約1/3は興福寺、法隆寺、東大寺にあります。おそるべし奈良です。
もちろん、国宝だからいいっていうわけではありません。国宝じゃなくても素晴らしい仏像はたくさんあります。でも今回の十一面観音、さすが国宝と思ったのも事実。

奈良の素晴らしいところは、ほとんどの仏像がいつ行っても見られること。地方では非公開だったり、予約が必要だったり、いろいろ面倒です。すごいなぁ、奈良は。
今回の旅もまた、私の奈良愛を深めてくれました。また行きたいなぁ。

(2023年10月29日 水野佳 *仏像以外のことは私のFacebookに写真載せてあります。)

























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