2024年2月27日火曜日

ロブスタ・アナエロビック

東ティモールから、ロブスタ種のコーヒーが届きました。

東ティモール・エルメラ県ポニララ村のサココ集落でロブスタ種のコーヒーを生産する青年組合コハル(KOHAR)が、2023年に初の試みとして行ったアナエロビック(嫌気性醗酵)製法の豆です。

え?ロブスタ、そのままは飲めないんじゃないの? なんて思いながら、パルシック・東ティモール事務所の伊藤淳子さんのレポートを読みました。「果実の甘みをしっかりと含んだ、おいしいコーヒーに仕上がっていました。」とあります。俄然興味がわいてきました。飲んでみたい、ということになって、サンプルを送っていただきました。やや小ぶりですが、きれいな豆です。


左側がコハルのロブスタ・アナエロビック。右側がいつも使っているアイナロ県マウベシ郡のCOCAMAU(マウベシ農業協同組合)の生豆。色が違いますね。大きさは、同じスクリーン17ということになっていますが、ロブスタの方が小さいようです。
早速焙煎してみました。うちでは、初めての豆はまず中煎り(シティロースト)にすることが多いので、ロブスタですが中煎りでやってみました。

左がロブスタ、右がいつもの中煎り。焙煎してもやはりロブスタが小さめ、それに少し色も濃い。アナエロビックだからでしょうか。(ロブスタについて、アナエロビックについては後述します。)
飲んでみました。ロブスタだから苦いんだろうなと思っていたのですが、全然そうじゃない。これがロブスタ??全然あり、というのが最初の率直な感想です。ロブスタ種のコーヒーを単体で飲んだのは初めてです。
この写真は、ロブスタの中煎りをいつもやっている松屋式ドリップで淹れたもの。見た目は普通です。確かに香りは強くない。でも一般に言われているような穀物感(麦茶とかトウモロコシ茶みたいとか言われたりする)はそれほどなく、独特の(煮だした漢方薬のような風味=ロブ臭と言われる)苦みも泥臭さも、感じられない。

そもそも、コーヒーには3大原種というのがある。アラビカ種、カネフォラ種(ロブスタ種)、リベリカ種。リベリカ種は生産量が少なく味も劣るため、実質はアラビカとロブスタ。

今世界で飲まれているレギュラーコーヒーはほぼすべてがアラビカ種。売っている豆も喫茶店で飲むコーヒーもみんなアラビカ。ただし、例外はベトナムコーヒーとエスプレッソ。 ベトナムコーヒーはロブスタ種を使い、独特の苦みや泥臭さを消すために、焙煎の段階でバターやニョクマムなどを加え、飲むときには練乳を入れて飲む。ベトナムはブラジルに次いで世界第2位のコーヒー豆輸出国だって知ってましたか?
また、イタリアでは、一部でエスプレッソを淹れる時、15~50%のロブスタ種を入れるそうです。これは消化促進と食後の口内リセットのため。でも日本で飲むエスプレッソは100%アラビカ種だそうです。ロブスタは日本人が嫌うタイプの苦さだと書いてあるものもありました。
ベトナム式コーヒーは、ロブスタの豆をフランス製の「カフェ・フィン」というアルミフィルターを使って濃く抽出するのですが、カフェフィンはフレンチプレスを簡易化したものだそうで、フレンチプレスで淹れるのも良いということ、なのでやってみました。確かにドロッとした濃さみたいなものは出るけどあまりおいしいとは言えない。実験失敗。

なぜベトナムでロブスタかというと、ロブスタは低地でも育てられ、高温多湿に適応し、病害虫にも強いから。ロブスタはラテン語で強靭という意味。1898年にアフリカのコンゴで発見されました。
アラビカ種が1300~1800mの高地でしか育たないのに対して、ロブスタは300~800mで栽培可能です。

では、ロブスタは何に使われているかというと、缶コーヒーやインスタントコーヒーの原料として使われています。最近スーパーやコンビニで売られているコーヒーに、「アラビカ100%」と書かれているのを見かけませんか。裏返すと、そう書かれていないのはロブスタが入っているということ。缶コーヒー、インスタントコーヒーのファンは一定数いて、その理由にいわゆる普通のコーヒーだとシャキッとしないという主張があります。それこそがロブスタのなせる技なのではないかと思います。ロブスタはアラビカよりもカフェインが多く含まれています。さらにクロロゲン酸もアラビカより多い。苦みや刺激はクロロゲン酸の焙煎によって生まれるとされています。だからロブスタの入っているコーヒーの方が覚醒作用があるというのは一理ある気がします。

東ティモールのロブスタに話を戻しましょう。
標高の低いサココのKOHARでは以前からロブスタ種を栽培し「乾燥式」と呼ばれる製法で精製していました。実が小さく、果肉が薄くて硬いロブスタは、収穫後に果肉を取らずそのまま乾燥させるのが主流ですが、KOHARでは2023年アナエロビック製法に挑戦。乾燥前のコーヒーの実を密閉容器に入れ、カビが発生しないようになるべく酸素に触れない状態で数日間醗酵させます。アナエロビック製法は、ロブスタの薄い果肉の糖度を存分に利用して、甘みを豆に移し、コーヒーにフルーティーな味わいを加えることができると言われています。(3枚の写真はパルシックのスタッフレポートより、内容も参考にさせていただきました。)

アナエロビックとは、日本語では嫌気性醗酵。収穫され、未熟豆などを取り除き(ハンドピックして)水で汚れを落とした豆を、乾燥させずに果肉が付いたまま密閉容器に入れて蓋をして、キャップにに小さな穴をあけたペットボトルにつないでガスを抜き、数日間空気に触れないようにして醗酵させます。空気のない環境で活発に活動する微生物(嫌気性の微生物)の力を借りての醗酵させます。

すべてが手作業です。

12日間ほど発酵させ、パイナップルのような甘い香りが漂ってきたら蓋を開けます。
カビも生えずにきれいに醗酵しました。
醗酵の終わった実を、アフリカンベッドと呼ばれる網を張った台に重ならないように広げて、通気性の良い環境で2週間ほど天日干しして完成です。
従来の乾燥式に比べて、甘みをしっかりと含んだ美味しいコーヒーになりました。


コーヒーにおける嫌気性醗酵には、カーボニックマセレーションとアナエロビックファーメンテーションがあります。カーボニックマセレーションはワインの醸造におけるマセラシオン・カルボニックがもとになっています。二酸化炭素が充満したタンクにブドウを入れ嫌気性の微生物の働きによって無酸素状態で醗酵させるマセラシオン・カルボニックは、甘くフルーティーな味を作ることができ、通常より短期間で醸造することができる。ボジョレー・ヌーボーはこの方法で作られています。
それをコーヒーに応用したのがカーボニックマセレーション。タンクに直接二酸化炭素を入れ、温度湿度を徹底管理して甘さや酸味をコントロールする方法。それを簡単にしたのがアナエロビック。直接二酸化炭素は入れず嫌気性微生物によって二酸化炭素を発生させる、比較的手間がかからない方法。今ではスペシャルティコーヒーではスタンダードになりつつあるらしい。一度乾燥してから嫌気性醗酵させたり、嫌気性醗酵を二度繰り返したり、フルーツやワイン酵母など加えて発酵させたり、様々なアナエロビックプロセスが行われています。コーヒーにいかに手をかけて、いかに高いお金を取るか、というような側面も否めません。その辺はちょっとどうかなという部分です。

KOHARから届いたロブスタ・アナエロビック、アラビカ種に少量だけ混ぜてみたらどうかなと、サイフォンでコーヒーを淹れる時に実験してみました。そしたら…おいしい!
ほんのちょっと(22g中 アラビカ17gでロブスタ5g)混ぜただけなのに全然変わりました!ふくらみが出て、コクが増え、奥行きがぐっと深くなりました。なんで??やっぱり適材適所で使うべきなのでしょうね。
今回のサンプルは200g、中煎りにしちゃったので、他の煎り方も(ロブスタの特徴を生かすにはもっと深くいるべきですよね)、また他の方法も、いろいろ試してみたいので、KOHARのロブスタ・アナエロビック、注文してみようということになりました。おいしいブレンド、作れるかもしれません。気長に待っててください。

最後に、ロブスタの可能性について。
以前にも取り上げたコーヒー2050年問題。温暖化と森林伐採によりコーヒーの栽培面積はどんどん狭められ、2050年までに現在のコーヒー産地の5割ほどでコー栽培ができなくなるのではないかと言われています。コーヒーを安定的に市場に供給するため、コーヒー業界で注目されているのが良質のロブスタ。日本ではロブスタは安物、低品質と思われていますが、風味豊かな高品質のロブスタはアラビカ種と同等の値段で取引され、ヨーロッパではロブスタ種のグレーダーテストも行われています。
また、研究によって、アラビカ種とカネフォラ(ロブスタ)ハイブリッド品種の掛け合わせで新しい品種が生み出されてきました。その鍵となっているのがハイブリッドティモール。実はティモールのコーヒーは純粋なアラビカ種ではありません。遥か昔に、なぜかロブスタとアラビカの交配によってできたハイブリッドティモールという品種。現在は正式にアラビカ種として認められていますが、どこかにロブスタが入っている品種です。本来アラビカとロブスタは染色体の数が違うため自然交配することはありません。ですがロブスタの痕跡を持つハイブリットティモールがその橋渡しをしてくれる可能性を秘めています。
ハイブリッドティモールと、ブルボンの突然変異種カトゥーラ種の掛け合わせで生まれたカティモールというハイブリッド種が注目されています。2050年問題解決へとつながる一歩かもしれません。(2023年2月27日 佳)














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