2015年9月14日月曜日

高円寺から太東へ

 ご縁というのは不思議なもの、千葉の外房への引っ越しは、あっという間に決まってしまった。私たちは、長年住み慣れた杉並を離れ、高円寺を離れ、外房の太東で新しい生活を始めることに決めた。



4月の末で高円寺の「炎の雫」を閉じた。最後の月は、ライブも映画もイデアの雫もやった。

5月の連休を使って、店の片づけをした。

さて、店の荷物をどうやって運ぼうかと思案していると、救世主が現れた。千葉の家を改装して、お店ができるようにする相談をしていた工務店の社長さんが、荷物を運んでくれるという。5月の中旬に、店の引っ越しは決行された。私たちは、人通りがあまりない早朝に荷物をトラックに積み込み、千葉へと出発した。生まれて初めての海ほたるを経由して、千葉に着く。結構近いんだ。ちょうど小学生が登校する時間だった。その日は、初めて太東の家に泊まった。時々電車が通る以外は、カエルの声と風の音だけ、静かだった。


さて、店の引っ越しが終わると、今度は家の片づけ。これが本当に大変だった。何せ20年も住んでいたのだから、どうしようもなくいろんなものが蓄積されている。人はいかに要らないものを捨てずにいるのか、思い知らせれた。千葉に行ったらすっきり暮らしたいと心から思う。5月いっぱいで児童館の仕事を辞め、それからが勝負、のはずだったが、その時点ですでに敗戦気分濃厚、友達に手伝ってもらったりしながら、何とか乗り切った。

6月中旬、ついに引っ越した。家の外ではエントランスのウッドデッキの工事中、家の中は段ボールの山。ベッドルームが確保されているので本当に助かった。このベッドもこの家の前の持ち主さんからいただいたもの、住居なのに居抜きと言っていい条件で引き継いだ、それが幸いした。

その日から、また片づけの日々、この家に残されたもの、店からもってきたもの、そして自宅から来たもの、3軒分の片づけ。さらに家の中の改装も始まる。ずっとぐちゃぐちゃは続く。お店のカウンター部分が出来上がって、やっと物の置き場が見えてきた。その時点で気がつけば2か月経っていた。

ここに来てまず思ったのは、緑一面の心地よさ。あたりは木や草や田んぼや畑、本当に気持ちがいい。

そして静かさ。聞こえるのは、風がさわさわと渡る音と鳥の声、虫の声。線路のすぐそばなので、電車と踏切の音がするけど、電車は1時間に1,2本だし、車もごくたまにしか通らない。なんて落ち着くんだろう。心も体もほっとする。駅のところに小さなスーパーがあり、踏切を渡るとホームセンターがある。自転車で15分くらい行くと大きなスーパーもある。そのスーパーに行くには、田んぼの中の一本道を通っていくのだけれど、これがホントに気持ちがいい。その真ん中くらいの畑で耳の遠いおじいさんが野菜を売っている。ここの野菜があまりにもおいしくて感動した。10円で売ってくれたキュウリは甘くて、キュウリが甘いなんて初めて思った。枝豆がまた絶品。ざるいっぱいに入りきらないほどで200円。虫もついてたけど。

                                                                                 

虫と言えば、千葉は虫と共存の生活。最初のころは、どこから来るのか家の中でいろんな虫を見かけた。小さな緑のカエルは毎日、お風呂場だったり、畳の部屋にいたり。カエルを外に出すのは夫の役目。今ではすっかり慣れっこ。見かけないと探しちゃうくらいお友達。かなり大きなクモが家の中に住んでいるみたい。ハリーポッターの禁断の森にいるクモみたいなやつ。でもクモはゴキブリを食べるそうだから、まいいか。越してすぐ、夫は小さなムカデに刺された。ムカデはやばいので、ムシコナーズを家の周りに撒いた。しばらくして私はハチに刺された。小さなハチだったのに、2週間たっても腫れている。やっぱりハチってすごいのね。

庭は芝生だったのを駐車場にしてしまったけれど、ぐるりと周囲が木に囲われている。中でもソテツの木が面白い。ここに来たときは、こんもりとした緑の山、まるで怪物みたいだったが、先日植木屋さんの手で全く別な姿に変わった。その姿も個性的、私はすっかりソテツファン。この庭はいろんな木があるという。松、梅、桜、桃、棕梠、月桂樹、藤etc、キウイの実や柿の実もなるし、バラも咲くらしい。ミントの葉っぱがいっぱい生えているのに気づいた件の社長は、それでモヒートを作ってくれた。植物に全く疎い私たちだが、結構楽しい。調子に乗って、ホームセンターに夏植えのキュウリがあったので植えてみたら、まったくただ植えて水をやっていただけなのに、キュウリが収穫できて感動。今まで4本食べたかな。ちゃんとおいしいキュウリでした。

                                                            

そんなふうに過ごしながら、自転車で近所を探検。太東海水浴場の海までも15分くらいで行けることを発見。太東灯台(ここの展望台に立つと地球が丸いことがわかる、絶景です)の方に、素敵なカフェも発見、ここは石窯で焼くおいしいピザが食べられる。崖の上の個性的なカフェもある。また、この辺りはパンやさんが多い。自転車圏なら4,5軒もあり、それぞれおいしいパンがある。なんだか東京よりずっとリッチな環境だ。

外の工事が終わると、自分たちでペンキを塗った。いろいろ考えたあげく、色は深い緑にした。ここでのイメージカラーは緑、窓枠やドアのガラスは淡いブルー。これは炎の雫の看板の色。緑との相性もいい。ペンキを塗るのは楽しかった。夫も私もはまってしまい、もっと塗るとこないかなと探す始末。
家の中に作ってもらったカウンターが出来上がると、やっと店のレイアウトが考えられるようになった。ずっと置きっぱなしだった段ボールを開け、食器やレコードや本を配置する。ここ外房では、「音・本cafe 炎の雫」という名前に決めた。音と本をゆったりと楽しんでもらう空間にしたい。
そうこうするうちに、もう3か月。保健所の営業許可も取れた。そろそろお店を始めようか、どういうふうにやろうかと夜な夜な、じゃないか、夜に昼に話し合っている。10月には営業を始めるつもりだが、せっかくだから、のんびりやりたいと思っている。


実は、9月6日の日曜日に、内輪のウォーミングパーティライブをやった。高円寺の炎の雫でも、半年ごとに神戸から来て歌っていた松濱正樹さんが、いつもの青春18きっぷで上京、ここに来たいというので、千葉は大網在住のシンガー畔柳賢朗さんにも歌ってもらい、水野たかしと3人のライブ。パーティライブなので食べ物も用意し、アットホームな集い。炎の雫開店当初のメニューだったチキンハムや、おじいさんの畑で買ったなす、近くのパン屋さんのパンで作ったサンドイッチ、勝浦の朝市で買った桜えび入りの卵焼きなどを作った。夏休みに東京からやってきた友達(彼女は引っ越しの荷造りを手伝ってくれた人です)が持ってきてくれたブルーベリーの冷凍を使ってケーキも焼いた。ずいぶん久しぶりに、人に食べていただくものを作った気がする。リハビリが必要ね。


今日は雨、朝から時折強く降ったりしながら、降り続いている。ここはいつもだいたい風が吹いているけど、今日はあまり風がない。だからいつもなら聞こえる風の音がしなくて、雨の音だけ。虫も鳥もどこかに避難しているのか、とても静か。コーヒーを飲みながらぼんやりと外を眺める。こんな贅沢な時間を過ごしている自分が不思議。だけどもうずっと昔からここにいたような気がする。ある友人がここに来て、私と夫がこの家に、この空間に親和していると言った。20年も昔からここで店やってるみたいだねと言った人もいる。それが縁というものか、私たちはこの家に呼ばれた。だからこんなに心地よくいられるのだろう。


皆さんもどうぞ訪ねてみてください。千葉は外房、太東の風の音を聞きに来てください。お待ちしています。(佳)

0 件のコメント:

コメントを投稿

新生・炎の雫

「炎の雫」新しくなりました。 東ティモールコーヒーから自家焙煎コーヒーへ。コーヒーの銘柄を増やして、カフェでも飲めるし、豆の販売でもご購入いただけるようになりました。 ラインナップに加わったのは、タンザニア・コロンビア・メキシコ・グァテマラ・エチオピアシダモの5種類。 また、焙煎...