2024年1月29日月曜日

アールブリュット

 

ここに数冊の本があります。アールブリュットに関する本、しばらくぶりに手に取りました。この本たちを本棚から引っ張り出したのは、1月10日~21日に千葉県立美術館で行われた「千葉アールブリュットセンターうみのもりの玉手箱3」という展覧会に行ってきたから。“うみのもり”は千葉県障害者芸術文化活動支援センター、2021年に設立されました。上総一ノ宮にある、たまあーと創作工房のこまちだたまお先生がセンター長です。

「うみのもりの玉手箱3」には “展覧会・あらゆるひとの表現“ という副題がついていました。テーマはよろこび。
今回は3つの部門での公募展。部門1は絵画・彫刻(立体)・写真・書・クラフトの作品、部門2はうみのもりフラッグの作品、部門3は詩等の作品。部門2と3は普通の展覧会ではなかなかないと思います。2のフラッグは大体が共同作品かな、旗の製作は福祉関係の作業所にお仕事として依頼し縫製してもらったものだそうです。
20枚以上の大きな旗がずらっと並んで迫力あります。それぞれの喜びがはじけています。
部門3の詩の作品は、プリントアウトされた紙が展示されているのと共に映像もありました。詩の朗読、読んでいるのはなんと詩人の大島健夫さんだ!思わずじっくり見入っちゃいました。やっぱり大島さんの朗読いいなぁ、さすがだ、なんて思いながら。他にも、身体表現の舞台を映した映像も、背景のアート作品も含めて面白かったです。

この作品はとても印象に残ったもの。
千葉県立美術館長賞を受賞した作品です。
美術展って、どうしても説明を読んだり、時系列や横のつながりを考えたりしてしまうけど、アールブリュットの展覧会は何も考えず、ただ見て感じて、いいなと思うことができるから大好きです。ただただ己の感性を働かすのみ。

この作品、めちゃくちゃインパクトがありました。
私にとっては、これぞアールブリュットという感じ。
燃えさかる火のような赤が、情熱的な喜びを表現している、あーかなわないなと思います。



この2点のほのぼのとした雰囲気も好きでした。
右側の女の子の表情には、なんだか心惹かれ、虹の下の動物たちは幸せそう。あらゆる人の表現とされているように、勢いに任せて描いたものも、ものすごく緻密に描かれたものも同居しているのがまた面白いところです。

この動物たちもいいですね。
これは千葉県教育長賞を受賞した作品。ま、賞なんてどうでもいいですが。
ダイナミックさが好きです。額縁のシマウマ模様が絶妙です。




立体作品もあります。これはお人形さん。ちょっとわかりにくいけど、とってもかわいいのです。5人並んでます。
これは千葉テレビの賞を受賞した作品。(いっそ賞なんて作らない方がいいかもと思う私もいます。)

こちらは陶芸作品。色とりどりの魚たち。こまちだ先生によると、千葉の特別支援学校では、せっかく作陶窯を持っているのに、壊れていたり、指導者がいなかったりして使えないところが多々あるのだとか。何とか使えるようにしてほしいものです。
東京の杉並区に都内では珍しい区立の養護学校があって、年に一度のバザーの時、授業で造った子供たちの作品、お皿や器、植木鉢などを販売していたりします。(もちろんお菓子や食品、布巾とかポーチとかいろいろあって楽しい、子供たちが育てた花もある、値段も安いから保護者以外の近所の方も楽しみにしてる。)

これは紙に字を書き連ねたものを透明のボードに張って吊り下げた作品。この作品のみ今回の展示ではなく、9月に茂原市美術館で行われたたまアート・コバルト教室の展覧会の時のものです。今回の県立美術館でも展示されていましたが、茂原の時の窓の外に木が見える風景の中の展示がステキだったので、この写真を乗せてみました。
このアイデアもいいですねぇ。
文字や漢字に拘って書き続ける方もいて、なんだか不思議。

これは細く切った紙を手で丸めた作品です。こまちだ先生は、作品を展示することについてのワークショップを何度も行っています。そうか、こういう展示の仕方でこんなに素敵に見えるんだ、と目から鱗。昔こういう知識があれば、描いた絵や手芸作品を素敵な作品に仕上げてご家族に渡してあげられたのに。

何か一つ切り抜いたモチーフを(例えば蝶々)画面の中に配置して、その周りに自由に線を書いたり色を塗ったりした作品は、これだと形を書いたりするのが苦手な人でもちゃんと表現できるからいいなと思いました。(それに似たことはやったことあるけれど、あくまで時間を費やすためのもので、作品にしようなんて考えもしませんでした。)

他にもたくさん魅力的な作品が並んでいます。
これはなんとなくすごーく好きだった作品。
何かを感じます。それで充分。

とあるアールブリュットの本に、「語るのはやめましょう。感じればいいのだから。」みたいなことが書いてありました。


私とアールブリュットとの出会いはもう15年以上前のこと。当時、とある知的障害児の放課後クラブでスタッフをしていました。
その頃エイブルアートという活動がり、中野の小さな会場で街角美術館みたいな巡回企画があって見に行きました。
そこで出遭ったのが 澤田真一さんの作品です。冒頭の右側の本「アウトサイダーアートの作家たち」の表紙は、澤田さんがトゲトゲさんを製作している指先のシルエット。左側の本「アールブリュット・ジャポネ」の中にも澤田さんの作品は掲載されています。
私、トゲトゲさんに一目惚れしました。

アール・ブリュットとはフランス語で「生(き)の芸術」、フランスの画家ジャン・デュビュッフェが命名しました。正規の美術教育を受けず、人間の生の根源からやむにやまれぬ衝動によってあふれ出してきた芸術作品のこと。アウトサイダー・アートとも呼ばれます。アウトサイダー・アートは美術史家のロジャー・カーディナルが定式化した言葉ですが、彼はその時カミュの「異邦人」を参照したそうです。異邦人は英語でアウトサイダー。アールブリュットとはちょっとニュアンスが違いますね。

欧米では1980年代以降、アールブリュットの作品は高く評価されるようになっていきます。そんな中、2010年3月~2011年1月に、パリのアル・サン・ピエール美術館で「アールブリュット・ジャポネ」展が開催されました。日本では、一般の人には障害者施設で行われている創作活動としか認識されていなかった頃、もしかしたらそれすら知らない人が多かった頃に、パリではちゃんと作家として扱われた製作者たちが、展覧会のオープニングに参加していたなんて、びっくりです。展覧会は大成功、12万人もの人が訪れました。
その後、日本でも展覧会が開催され、主だった作家たちがテレビに出演したりしました。私も美術番組で見た記憶があります。

アールブリュットに惹かれて、映像や本を探したりして、ぜひ行きたいと思ったのが滋賀県近江八幡市にある「ボーダーレス・アートミュージアムNO-MA」。日本の障害者施設の草分けでもある滋賀県に2004年に設立されました。障害者とアートをつなぐ展示スペースとして、あらゆる境界を越えた新しい芸術文化の交流を目指して活動しています。アールブリュット・ジャポネ展も、パリの美術館とNOMAの交流事業によるもの、日本側の作業はNOMAが担当したそうです。滋賀にこんなところがあるなんて、全然知りませんでした。すごい!
やっとNPMAに行けたのは2017年の2月、雪の日でした。古民家の一軒家。絵画、書や文字の作品、造形作品が並べられ、蔵にも陶芸作品が置かれています。何だかほっとする空間、居心地がよくてずっと居たくなる。でも残念ながらこの日は澤田さんの作品はなくてポストカードだけ買ってきました。(NOMAの写真の前がその時買ったポストカードの写真です)

澤田真一さんのトゲトゲさんと再会できたのは、2020年8月、東京芸大美術館で行われた「特別展・あるがままのアートー人知れず表現し続ける者たちー」の会場でした。
コロナの真っただ中で、オンラインでロボットを遠隔操作するというロボット鑑賞を申し込み、それはやったけれど、やっぱり直接自分の眼で見たいよね、という結論に達して、夫と2人で出掛けて行きました。この展覧会は芸大とNHKの共同企画。NHKに「no art, no life」というミニ番組があるのですが、その映像を流してアーティストたちの紹介もしつつ、作品展示しています。参加の作家さんは、今となってはアールブリュット界のビッグネームと言うべき人たちがずらり。
魲 万里絵さん、川上健次さん、松本寛傭さん、戸来貴則さん、山際正巳さん(正巳地蔵という小さなかわいいお地蔵さんを何百何千と作り続けている)・・いずれも世界に知られたアーティスト。わくわくします。興味があったらネットで検索してみてください。
そして、いました!トゲトゲさん。8人もいる!それまで本や写真で見てたのとは少し変化(進化?)して、でもあのトゲトゲさんでもあって、思わずにんまりしちゃいました。嬉しい。澤田さんは言葉を発することはほとんどなく、作品に名前を付けることもしません。だから全部無題。生み出した生き物たちに、しなやかな指で黙々と棘を植え付けていきます。彼は何の迷いもなく淡々と、時に微笑みながら棘を植えていき、完成すると彼らは窯で3日間焼かれ、自然と偶然の炎の力で赤茶色の鎧のような衣を纏う。
彼の生き物たち、「トゲトゲしているのに、なんともユーモラスな愛らしさをたたえ、その不可思議な魅力で彼は多くのファンを持つ。」(角川学芸出版発行「アウトサイダーアートの作家たち」より)まさにそう、私も彼の生き物に魅せられた一人です。今度いつトゲトゲさんたちに会えるかなぁ、楽しみにしてアールブリュットの展覧会を待ちましょう。

久しぶりに本を手に取り、パラパラ見るはずが、いつしかしっかり読んで、じっくり見入って、時の経つのを忘れてしまいました。丸ごと全部、どのページを開いても面白い。アールブリュット凄いです!ぜひ触れて、感じてみてください。

最後に。
「うみのもりの玉手箱3」に行ったとき、同時開催のメイン企画「テオ・ヤンセン展」も見てきました。こっちもとってもおもしろかった。風力で動くストラビンビースト(砂浜の生物という意味だそうです)という機械の展示とデモンストレーション、映像もあり。壮大なおもちゃみたいな機械。これも一種のアウトサイダーアートと言えるかもと思いました。千葉県立美術館、楽しい一日でした。

2024年が始まり、早1か月。年明け早々地震や事故で不安な幕開けでしたが、この先、誰もが、少しでも穏やかな日を送れるように願ってやみません。(2024年1月29日 水野佳)

*参考 千葉県障碍者芸術文化活動支援センター うみのもり https://uminomori.net/
            ボーダーレス・アートミュージアムNOMA https://no-ma.jp
    「アールブリュット・ジャポネ」発行:現代企画室 2010年
    「アウトサイダー・アートの作家たち」発行:株式会社角川学芸出版 2010年
    「福祉×表現×美術×魂」発行:3331 Arts Chiyoda 2013年
*「no art, no life」は主にNHKのEテレ・日曜日の朝の日曜美術館の直前8:55~の5分間と水曜日の午後11:55~放送されています。ナレーションは内田也哉子。















































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