2025年6月28日土曜日

十和田市現代美術館 

 

ずーっと行きたかった十和田市現代美術館へ行ってきました!

とてもとてもおもしろくて、感動的で素晴らしい体験でした。

外房線太東駅から東京駅へ、東北新幹線で七戸十和田駅で降り、そこからバスで十和田市へ。5時間ちょっとの道のり。バスの本数もなくてネットで調べて、これしかないっていうのに乗っていきました。まそういうのを調べるところからが旅の楽しみともいえます。

この美術館のヴィジョンは「アートによる新たなる体験を提供し、未来の創造への橋渡しをする美術館となること」。建物は基本は白い立方体ですが、壁面の一部には絵が描かれています。一つの面はポール・モリソン(イギリス、1966年~)の「オクリア」という作品(2008年制作)。版画や切り絵を思わせるような太くはっきりとした黒い線で描かれたリンゴの木のある風景。もう一つの面には奈良美智の「夜露死苦ガール2012」。庭に立つのはチェ-ジョンファ(韓国、1961年~)の「フラワー・ホース」(2008年)。力強く立ち上がリ、今にも走り出しそうな花で埋め尽くされた馬。人々を迎えるウエルカムブーケだそうです。

十和田市現代美術館は2008年開館。中央省庁の再編計画を背景に、官庁街通り全体を美術館に見立てたまちづくりプロジェクト「Arts Towada 」計画の中核施設として開館しました。向かい側の旧税務署跡地がアート広場として整備され、さらに街中へも展開していきます。美術館のある観光庁通りは松と桜の並木道、この道は別名駒街道、そのためか、いたるところに馬の彫刻なども配置され、アート作品もあって、楽しく、気持ちよくお散歩できます。

術館の中に足を踏み入れると、エントランスの床一面に広がるカラフルな幾何学模様。これも作品、ジム・ランビー(イギリス、1964年~)の「ゾボップ」(2008年)、リズミカルで躍動感があります。


そこからつながる部屋にロン・ミュエク(オーストラリア、1958年~)「スタンディング・ウーマン」(2007年)。十和田市現代美術館といえばこれ、様々なメディアで取り上げられているので、目にしたことがある方も多いでしょう。約4メートル“おばさん”。この大きさにしてびっくりするほど克明なデティール、皮膚、髪の毛、透き通って見える血管、洋服の質感…見惚れてしまいます。実際にこういう人いるよなぁ、この世界のどこかに彼女は存在してるだろうと感覚的に納得してしまうようなリアリティ。ぐるぐる回りながら見上げると、その都度表情が違って見えます。仏像みたい。虚空を見つめているような、目が合ったりするような。空間には静謐感が漂う、不思議な感じです。


ミュエクは子供向けのテレビや映画のためのモデルやパペットや、レゴのタブローの一部として小さなフィギュアを制作していました。1997年、父親の死を受け入れるために制作した「デッド・ダッド」で一躍有名になります。それは父親の死体を2/3スケールでぞっとするほどリアルに再現したものでした。シリコン製で、髪の毛は自分の髪の毛を使ったそうです。

ミュエクの作品は、実物大ではなく、極端に拡大、または縮小されたスケールで制作されることが多く、それによって見る者の感覚に強烈に訴えかけ、内面に目を向けさせ、生と死を見つめなおすことを促します。

現在韓国の国立現代美術館ソウル館にて、大規模個展開催中。大阪関西国際芸術祭にも作品が展示されています。


*いつもはなるべく作品だけの写真を載せていますが、この美術館のコンセプトは体験なので、今回はあえて作品を体験している写真も載せます。体験者は私または夫です。


屋外に置かれている作品をガラス越しに鑑賞しながら廊下を進みます。次の部屋は塩田千春(大阪府生まれ、ベルリン在住、1972年~)の「水の記憶」(2021年)。一艘の古びた木船、それをつなぎとめるかのように張り巡らされた無数の赤い糸。圧倒的に真っ赤な部屋。思わず息を呑みました、凄いです。

塩田千春といえば赤い糸、糸で紡ぐ大規模なインスタレーション。彼女は3次元に絵を描くための線として糸を使っているといいます。「糸が時々からまったり、切れたり、張り詰めたり、緩んだりというのが人間関係にも置き換えられる。自分の心を表す鏡のような存在として糸を使っていります。」

船は未知の場所へ導くと同時に、ひっくり返ったら死んでしまう、いつも死と寄り添っている存在でもあります。


船から湧き出すように編まれた糸は、壁面へ、天井へと広がり、糸が糸でなくなった時、やっと表現したかった世界が見えてくると言います。見えない何か、糸の向こう側にある世界。「作品は私(塩田)から、あるとき私たちになって、それがまた、見た人によって私(見た人)に戻る。」

なるほど。共感します。


インタビューの最後に彼女は、猪熊弦一郎が「美術館は心の病院だ」といったことに触れて、「言葉にならない感情や心の葛藤がインスタレーションになり、私のようにうまく言葉を伝えられない人が作品を見ることによって、その葛藤が緩和される。美術館というのはそのような場所であり、共感が持てる作品がいっぱいある。」(十和田市現代美術館HP アーティストインタビューより)


塩田千春の部屋の向かい側には、ハンス・オプ・デ・ベーク(ベルギー、1969年~)の作品「ロケーション(5)」(2004/2008年)。ここはほとんど真っ暗な部屋です。ここがまたいい!


暗闇に目が慣れてくると、そこはダイナー(レストランのようなもの)の中、テーブルと客席があり、窓の外は高速道路、オレンジ色のライトが物憂げにひかり、かすかにノスタルジックな音楽が流れています。錯視を利用していて、壁は鏡、実際はかなり狭いスペースですが、どこまでも続く道路と風景は全く人気がなく森閑として、まるでヨーロッパのどこかの田舎のドライブインに居るかのよう。なんだか居心地よくて、ずーっと座っていたい、コーヒーでも飲みたいな、なんて思っちゃいます。



この作品は、彼自身の体験から生まれました。オランダ北部からベルギーまでの長距離を車で移動していた時期に、ラジオで聞いていた古い音楽と夜の風景が混ざり「どこでもない場所になった」と感じたこと。


鑑賞者はまず、静けさや穏やかさを感じ、そこから瞑想して様々な思考に向き合います。自分自身の感情、他者、人生、時間、空間、死(存在の儚さ)。

「黒とオレンジの2つのトーン、それは詩のようなもの。想像への余白があり、そこに何を付け加えられるかが重要。」「アーティストとしての私の仕事は、世界をありのままにシュミレートすることではなく、世界を解釈し、本質の一部を呼び起こし、根底にある核を明らかにすること。」「鑑賞者はまず作品を体験し、自ら発見し、そして幾重にも重なった意味や問いを見出していくものです。」(アーティストインタビューより)



本館から外に出て、別の建物の中にあるのが、レアンドロ・エルリッヒ(アルゼンチン、1973年~)の「建物ーブエノスアイレス」(2012 /2021年)。

床に置かれたヨーロッパ風の建物の上を自由に歩き、ポーズをとると、斜めに置かれた鏡によって、立ち上がっている建物の壁の上では重力から解き放たれたような光景が映し出されます。作品の中に入り込む体験。見るー見られる相互関係。ものすごくおもしろい!


この作品を見に行ったのは人が少なくなった夕方近く、たまたま誰もいなくて私と夫だけ。スタッフの方が、こんなことめったにないから十分楽しんで行ってくださいと言ってくれて、いろんな事やって写真撮りました。



レアンドロ・エルリッヒの建物シリーズは2004年のパリから始まり、世界中で制作されてきましたが、常設展示は十和田市現代美術館が初めて。

彼の作品「スイミングプール」が、金沢21世紀美術館で恒久展示されていて、インスタ映えスポットとして人気を博しているのをご存じの方もいらっしゃるでしょう。


私たちは、2018年の大地の芸術祭に行った時、越後妻有現代美術館キナーレでエルリッヒの作品「Palimpsest 空の池」を見ています。大きな池に写される鏡像が複層化し、ある地点から見ると完全に一致するという不思議な現象を体験しました。あのエルリッヒだ、と思いつつ、行ったり来たりして、壁に腰かけてるみたいな、または垂直に立ってるみたいな自分達を見て、なんとも不思議な感じ。楽しかった!



この他にも素敵な作品がいっぱいです。簡単にご紹介していきましょう。


トマス・サラセーノ(アルゼンチン、)の「エア-ポート-シティ」(2008年)

透明なバルーンの集合体が網目状の暇によってつながれていて、梯子を上って中に入ることができます。国や領土という概念から解放されて、雲のように形を変えながら空に浮かぶ都市の在り方を呈示しているそうです。


ソ・ドホ(韓国、1962年~)「ユーズド・アンド・エフェクト」(2008年)。

一見巨大なシャンデリア、近づいてみると赤、オレンジ、半透明の、肩車してつながっている人形が吊り下げられているのです。世代から世代へ、連綿と受け継がれていく知識や記憶を表現しているとのこと。

これは内側に入って上を見上げて撮った写真です。



アナ・ラウラ・アラエズ(スペイン、1964年~~)の「光の橋」(2008年)

幾何学的な柱状の彫刻ですが、中に入ると柔らかな青い光と浮遊感漂う音が空間を満たしています。宇宙へのトンネルみたい。

女性作家であるアラエズは、強靭さと儚さを併せ持つ作品を作り、いつ傷つき壊れるとも知れない弱さやもろさを持つ人間の本質的な姿を映し出すとされています。「水平な人間の背骨の中を歩くことで、人生の軌跡を新しい視点から考えることができる」と述べています。このトンネルは人間の背骨の中なのですね。



階段だって作品です。
フェデリコ・エレーロ(コスタリカ、1978年~)屋上へと続く階段はカラフルな色と形「ウオール・ペインティング」。屋上は空の青と呼応するような水色、ところどころに目玉のようなものが描かれた「ミラー」(どちらも2008年)。
十和田に滞在し、この地の印象を交えて即興的に描いたものだそうです。
この写真、なんだかアートの一部になったみたいな気分でうれしいです。

カフェの床も作品で、ちょっと和風な感じの色とりどりの花が描かれています。着物の柄とか、花札とかを連想させるような。そしたら、南部裂織に着想を得た、と書かれていて納得。東京生まれで中国(台湾)在住のマイケル・リンの作品、日本人じゃないのね。

マリ―ル・ノイデッガー(ドイツ、1965年~)「闇というもの」(2008年)

ここも闇、かなり暗い森、徐々に木々が浮かびあがってきます。その中を歩く体験は、本物の夜の森を歩いているよう、ちょっと怖いくて、何かがいるかもしれない感じ。

「森やイメージ全体を一度に見渡すことはできない。…自分の想像力を信じて余白を補い、未知なるものを受け入れるしかない。」
見えないということはそういうことなのですね。

中庭にオノ・ヨーコ(東京都生まれ、1933年~)の作品。
「念願の木」これはオノヨーコが世界各地で行ってきたプロジェクト。七夕の短冊のようなカードが置いてあって、メッセージを書いて木に吊るします。手前には「平和の鐘」京都の古寺にあった鐘だそう、鳴らすとすごくいい響き。木と鐘の間は玉石の道でつながっていて、これが「三途の川」。

屋外の道路沿いに、真っ赤なでっかい昆虫。椿昇(京都府生まれ、1953年~)の「アッタ」(2008年)。モチーフになっているのはハキリアリ、中南米に生息し、農耕する蟻と言われています。葉っぱを切り取って巣に運んで菌類を栽培して餌にするらしい。日本では生息していなくて、唯一多摩動物園で飼育されているそうです。作品の意図は「地球上の資源を奪い続け、大量消費を止めない人間への警告」。

壁と壁の間に、森北伸(愛知県生まれ、1969年~)の「フライングマン・アンド・ハンター」(2008年)。
壁に手足を突っ張って恐る恐る進もうとしている人、梁の上にはもう一人、なんかドラマがありそうですね。薄い鉄のプレートに開いた穴が、「空気や光を捉え、時刻や天候、角度によって異なる表情を見せてくれる。」
白い壁と青い空に映えて、妙に印象に残ります。
作者は今、愛知県立芸術大学の教授です。
(ちなみに愛知県立芸術大は奈良美智の出身校です。公立で学費が安いからと選んだらしい。その後、奈良はドイツのデュセルドルフの芸術アカデミーへ進みました。)


美術館の向かいはアート広場になっていて、草間弥生(長野県生まれ、1929年~)の作品も。「愛はとこしえ十和田でうたう」。
ここのかぼちゃは中に入れるようになっていて、子供たちが遊びの基地にしていました。「草間さんのかぼちゃで遊べるなんていいなぁ」と思わず言ったら、通りがかりの中学生が「本当に。いいですよねぇ」と返してくれました。こういうの、なんかいいな。



屋外アートもたくさんあります。美術館通り沿いには、ストリートファニチャーと名付けられたいろんな形のベンチが点在。これは「イン・フレークス」という作品。(2010年)作ったのはマウントフジアーキテクツスタジオ。ステンレスのかけらが折り重なるようなベンチ。そこに木々の緑が映り込みます。
葉っぱに囲まれ、覗き込んでいる夫の顔、アートだなぁ。


最後に。
冒頭で触れた、奈良美智(青森県生まれ。1959年~)「夜露死苦ガール2012」(2012年)。

笑っているようにも見えるし、何かを飲み込んでいるようにも見える、「見る人によって表情を変え、まるで私たちの内面や記憶、誰かの面影を浮かび上がらせるようでもある。」とあります。
美術館のHPに、奈良美智のトークがあるのですが、その中で、彼は女の子の絵を描くとき、一度書いたものを潰して、また描いて、とやっていくうちに、ずっと見ていられる顔になっていく、と述べています。なかなか興味深い動画です。



ご紹介しきれていませんが、一旦この辺で。

十和田市現代美術館内の作品を中心にご紹介しました。


美術館のパンフレット、ホームページを参考にさせていただきました。ホームページには、アーティストトークやインタビューなどがたくさん載っていて、どれも興味深くて面白いです。興味がある方は読んでみてください。

 十和田市現代美術館 https://towadaartcenter.com


 

私たちは初日夕方まで美術館に居て、十和田で一泊し、次の日の朝から、まちなかのアート作品を見て回り、次の目的地仙台へと向かいました。

十和田名物のバラ焼きもしっかり食べてきましたよ~大量の玉ねぎと牛肉、美味しかった!!

美術館のカフェで食べたプレーンの南部せんべいに乗ったソフトクリーム、えーおもしろい、と食べたけど、この組み合わせ、意外と合います。


(実はこの旅の真の目的は、吉田鋼太郎演出、藤原竜也主演「マクベス」の仙台公演。藤原竜也の舞台での圧倒的な存在感を堪能してきました。)  2025年6月28日 水野佳









十和田市現代美術館 

  ずーっと行きたかった十和田市現代美術館へ行ってきました! とてもとてもおもしろくて、感動的で素晴らしい体験でした。 外房線太東駅から東京駅へ、東北新幹線で七戸十和田駅で降り、そこからバスで十和田市へ。5時間ちょっとの道のり。バスの本数もなくてネットで調べて、これしかないってい...