2024年10月25日金曜日

本のための小さなスペース


今年の5月、松本で「栞日」というブックカフェを訪れてすっかり魅了され、帰ってきて炎の雫を何とかして栞日みたいにできないかと考えて、炎の雫・栞日化計画を実行。

とりあえず、カフェ入り口のすぐ内側に大きめのテーブルを置いて、本を展示するための

小さなスペースを作りました。


第1弾の展示は、長野旅行で見てきた東山魁夷と草間彌生と縄文土偶に関する本、草間彌生に関する本は何冊か持っていたのでそれも。その中に草間の「不思議の国の国のアリス」があって、アリスの絵本何種類か置いて…なんてやってたらとっても楽しい。

第2弾はアート系の絵本、クレー、ピカソ、カンディンスキー、日本からは名嘉睦稔、ミロコマチコ、junaida、米倉斉加年の「タケル」も置いてみちゃったりして。めちゃくちゃですね。要するに、私が好きで持ってる本(おもに絵本)から、ちょっとした関連を見つけて並べただけ。たったテーブル一つだけれど、とても気に入っています。


しばらくして気が付きました。これは自分のためにやってることなんだって。本棚に並べておいても、それを引っ張り出して手に取ることってなかなかない。でもこうやって並べておくと、ふとした隙間に、ちょっと手に取り、パラパラ見て、そうすると、思わず見入ってしまったり、気が付くと読んじゃったりして‥おいてある本が絵本だったりすると、少しの時間で読めて気持ちがほわんとして、思いがけずゆたかな時間がつくれます。だいたい10冊くらい置いといて、ひと回り読んだらテーマを変えて置き替えることにしました


転換するまではざっくり1月くらい。第3弾は、カフェは夏休みだったけど、孫たちが来るからと、保育園から小学校低学年の子どもが好きそうな本を置きました。実は障害のある子どもたちに読み聞かせするために、わかりやすくて短くてよい絵本を集めていたので、小さい子が楽しい絵本はいっぱいあります。久しぶりに見て、私も楽しく、改めていい絵本だなあと思ったりしました。

そして9月中旬にカフェ再開して第4弾。

この秋は、木とか森とか自然とかをテーマに絵本を並べてみました。今回の展示、ご紹介しましょう。


10月のとある雨の午後、展示台からふと手に取ったのは

「大きな木」。シェル・シルヴァスタイン作。


「あるところにいっぽんの木がありました。その木はひとりの少年のことがだいすきでした。」で始まります。木のもとで遊んでいた少年は、大きくなり、いろんなものが欲しくなります。少年が欲しいものを、木は与えます。葉っぱを、りんごを、枝を、幹を、その度に、「木はしあわせでした。」


アメリカで初版が出版されたのは1964年、日本では本田錦一郎訳で1976年に出版されました。2010年、あすなろ書房から村上春樹の訳が出て、それが欲しくて買い直して、何度か読んでからしばらく読んでなかったのですが、久しぶりに読みました。ずいぶん印象が違いました。この本、原題は「Giving Tree」与える木です。でもこれじゃ「奪う人」ですよね。与え続ける木は美しいのだろうか、無償の愛っていわれたりするけど……いろいろ考えてしまいました。木が舟が欲しいという少年に幹を与え、少年がそれで舟を作って旅立ってしまったところ、「それで木は、しあわせに なんてなれませんよね。」と村上春樹は訳しています。(前の訳では、「きはそれでうれしかった。だけどそれはほんとかな?」となっています。ここが唯一作者が疑問を呈しているところです。村上春樹の方が一歩踏み込んでる?)


村上春樹はあとがきで「あなたは木であり、少年であるかもしれません。あなたがこの物語の中に何を感じるかは、もちろんあなたの自由です。それをあえて言葉にする必要もありません。」と言っています。

ほんの数分で読める本、だけど無限の拡がりを持つ本です。



「森の絵本」

長田弘作・荒井良二絵。1999年、講談社。

アストリッド・リンドグレー賞受賞。


姿の見えない声に誘われて、森の中へだいじなものを探しにゆきます。

だいじなものは、水のかがやき、花々のいろ、わらいごえ、本、夢…

だいじなものは森の中にある、大きな木、ゆたかな時間。



「もりのえほん」
安野光雅作。1977年、福音館書店。

字のない絵本です、ただひたすら、木や森が描かれています。でも仕掛けがあって、各ページに動物たちが隠されています。これを探すのが相当に難しい。

例えばこの写真のページにはチンパンジーとアライグマと、トカゲ、トナカイ、ウサギ、カンガルーがいるとか。わかんなーい。


「ミッケ!」っていうかくれんぼ絵本、知ってますか?小学館からいろんなシリーズが出てるロングセラー。うちの子供たちは小さいころ、ミッケにはまって、一時は夢中になってました。今でも何冊か残っていて、時々やってくると、懐かしいなと言いながら孫と一緒になってやっています。ミッケの難しさは、いくつかはすぐに見つけられるけど、最後の1つ2つがなかなか見つからない難しさ。でもこれは最初っから全然見つけられない。探すコツは、ちょっと離れて全体を見渡すことでしょうか。実は、未だに見つけられないのもありりますが。

「もりのなか」

マリー・ホール・エッツ作。1963年。福音館書店。


森へ散歩に行くと、ライオンに会って「ついていっていいかい?」といわれて、それからぞうに、くまに、かんがるーのおやこやこうのとり、さる、うさぎもついてきて、みんなであそんで。かくれんぼでめをつぶってあけたら、おとうさんがたっていました。



美しい絵本。


「木のうた」イエラ・マリ作。

1977年、ほるぷ出版。




ページを開くと、どのぺージにも同じ位置にいっぽんの木が描かれています。

木の周りの鳥やリスやネズミなどと一緒に、季節は移り変わっていき、木も、周りの景色も変わっていきます。


この本、まったく文字はなくて絵だけ。

とても美しい。



木からは離れますが、

「よあけ」ユリー・シュルヴィッツ作。1977年。福音館書店。


(あ、これも1977年、このころは名作絵本ラッシュだったのね。)


おじいさんとまごがねむるみずうみのきのほとり。うごくものがなにもない。

そこにそよかぜがふいて、もやがでて、とりがないて。おじいさんとまごはみずうみにこぎだす。そしてよがあける。

それだけ。ことばは1ページに1つか2つ。

でもため息がでるほど美しい。本当に美しく、眺めているだけで心が満たされていく、そんな本です。


「けもののにおいがしてきたぞ」

ミロコマチコ作。2016年、岩崎書店。


ミロコマチコについては、8月のブログで東京都美術館の「大地に耳をすます。気配と手ざわり」を取り上げた時にも、もっと前に千葉の市原湖畔美術館での個展についても書きました。もともと大胆だったけど、奄美に移住してからますますパワーアップしてますね。


森の中の光景です。彼女の中の原始の森。「ここはけものみち。ムニムニ、じょわじょわ、くさばなたちがさわいでる。けもののにおいがしてきたぞ。」


「ぺテぺテぺテぺテ ザーゾーザーゾー」「むおんむおん ぐねれぐねれ」「ガムルガムル バオウバオウ」「ボギザダ ボギザダ」オノマトペも楽しい。

さいごは「ここはけものみち だれでもとおっていいところ」で終わります。


木ではないのをもう一つ。


「世界のはじまり」バッシュ・ジャーム作。2015年。ターラーブックス。二ホンでの出版はタムラ堂。


これはインド・チェンナイ郊外の工房で、手漉き紙にシルクスクリーンで印刷して手製本で一冊ずつ仕上げたターラーブックスのハンドメイドの本。「夜の木」で一躍有名になりました。


ゴンドアートの第一人者によって、神話的世界と日常生活を結びつけて描かれた創世神話です。


ゴンドの神話では、世界のはじまりは水。何もないからっぽなところに、水がほとばしりでて、大気がうまれ、泥があらわれる、ミミズといっしょに。泥は七種の土となる。ゴンドでは最初に生れたものはミミズなのね。


時は昼と夜で一つの全体。季節は巡っていて、一つのサイクルが終わると新たなものが始まるという世界観。


最後に。「夜の木」 木がテーマなら、これを入れなくちゃね。

バッジュ・シャーム、ドゥルガー・バーイー、ラーム・シン・ウルヴェーティという3人のゴンドアーティストによって描かれた木にまつわる神話の絵本。2012年に日本ではタムラ堂によって出版。


NHKの“せかいはほしいものであふれている”で取り上げられたりして人気になりました。

“せかほし”では紙の回で取り上げられたようです。コットンから作られた手漉きの紙、普通の紙の本とは手ざわりが全然違います。


描かれているのは神話に基づく想像上の木です。

菩提樹は創造主のすみか。ドゥーマルは聖なる木。ヘビの女神は地面の下に住んでいてその上には1本の木が生えている。キルサリの木はどこにいても守ってくれる。センバルの木には精霊が住んでいて、闇夜に光る。

‥‥おもしろいです‥、おはなしも絵も。




ちなみに、ターラーブックスの本はハンドメイドでちゃんとナンバーが打ってあります。

私が持ってるのは「夜の木」が1746 / 3000、(第何刷かはよくわからない)、「世界のはじまり」が第4刷の1908 / 2000 です。

ぜひ一度手にとってみてほしいなぁ、てざわり、ほんときもちいいです。


そんなこんなで、今回の展示、一度ならず二度三度と手にとり、見かえしたりしちゃって

なかなか飽きません。

小さなブックスペース、つくってよかった!とつくづく思っています。


(2024年10月26日 水野佳 絵本の紹介の中では、原文の表記のままにしてるのもあって、ひらがなだらけになりました。



十和田市現代美術館 

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