今年の5月、松本で「栞日」というブックカフェを訪れてすっかり魅了され、帰ってきて炎の雫を何とかして栞日みたいにできないかと考えて、炎の雫・栞日化計画を実行。
とりあえず、カフェ入り口のすぐ内側に大きめのテーブルを置いて、本を展示するための
小さなスペースを作りました。
第1弾の展示は、長野旅行で見てきた東山魁夷と草間彌生と縄文土偶に関する本、草間彌生に関する本は何冊か持っていたのでそれも。その中に草間の「不思議の国の国のアリス」があって、アリスの絵本何種類か置いて…なんてやってたらとっても楽しい。
第2弾はアート系の絵本、クレー、ピカソ、カンディンスキー、日本からは名嘉睦稔、ミロコマチコ、junaida、米倉斉加年の「タケル」も置いてみちゃったりして。めちゃくちゃですね。要するに、私が好きで持ってる本(おもに絵本)から、ちょっとした関連を見つけて並べただけ。たったテーブル一つだけれど、とても気に入っています。
しばらくして気が付きました。これは自分のためにやってることなんだって。本棚に並べておいても、それを引っ張り出して手に取ることってなかなかない。でもこうやって並べておくと、ふとした隙間に、ちょっと手に取り、パラパラ見て、そうすると、思わず見入ってしまったり、気が付くと読んじゃったりして‥おいてある本が絵本だったりすると、少しの時間で読めて気持ちがほわんとして、思いがけずゆたかな時間がつくれます。だいたい10冊くらい置いといて、ひと回り読んだらテーマを変えて置き替えることにしました
転換するまではざっくり1月くらい。第3弾は、カフェは夏休みだったけど、孫たちが来るからと、保育園から小学校低学年の子どもが好きそうな本を置きました。実は障害のある子どもたちに読み聞かせするために、わかりやすくて短くてよい絵本を集めていたので、小さい子が楽しい絵本はいっぱいあります。久しぶりに見て、私も楽しく、改めていい絵本だなあと思ったりしました。
そして9月中旬にカフェ再開して第4弾。
この秋は、木とか森とか自然とかをテーマに絵本を並べてみました。今回の展示、ご紹介しましょう。
10月のとある雨の午後、展示台からふと手に取ったのは
「大きな木」。シェル・シルヴァスタイン作。
「あるところにいっぽんの木がありました。その木はひとりの少年のことがだいすきでした。」で始まります。木のもとで遊んでいた少年は、大きくなり、いろんなものが欲しくなります。少年が欲しいものを、木は与えます。葉っぱを、りんごを、枝を、幹を、その度に、「木はしあわせでした。」
村上春樹はあとがきで「あなたは木であり、少年であるかもしれません。あなたがこの物語の中に何を感じるかは、もちろんあなたの自由です。それをあえて言葉にする必要もありません。」と言っています。
ほんの数分で読める本、だけど無限の拡がりを持つ本です。
「森の絵本」
長田弘作・荒井良二絵。1999年、講談社。
アストリッド・リンドグレー賞受賞。
姿の見えない声に誘われて、森の中へだいじなものを探しにゆきます。
だいじなものは、水のかがやき、花々のいろ、わらいごえ、本、夢…
だいじなものは森の中にある、大きな木、ゆたかな時間。

例えばこの写真のページにはチンパンジーとアライグマと、トカゲ、トナカイ、ウサギ、カンガルーがいるとか。わかんなーい。
「もりのなか」
マリー・ホール・エッツ作。1963年。福音館書店。
森へ散歩に行くと、ライオンに会って「ついていっていいかい?」といわれて、それからぞうに、くまに、かんがるーのおやこやこうのとり、さる、うさぎもついてきて、みんなであそんで。かくれんぼでめをつぶってあけたら、おとうさんがたっていました。
「木のうた」イエラ・マリ作。
1977年、ほるぷ出版。
木の周りの鳥やリスやネズミなどと一緒に、季節は移り変わっていき、木も、周りの景色も変わっていきます。
この本、まったく文字はなくて絵だけ。
とても美しい。
木からは離れますが、
「よあけ」ユリー・シュルヴィッツ作。1977年。福音館書店。
(あ、これも1977年、このころは名作絵本ラッシュだったのね。)
おじいさんとまごがねむるみずうみのきのほとり。うごくものがなにもない。
そこにそよかぜがふいて、もやがでて、とりがないて。おじいさんとまごはみずうみにこぎだす。そしてよがあける。
それだけ。ことばは1ページに1つか2つ。
でもため息がでるほど美しい。本当に美しく、眺めているだけで心が満たされていく、そんな本です。
「けもののにおいがしてきたぞ」
ミロコマチコ作。2016年、岩崎書店。
ミロコマチコについては、8月のブログで東京都美術館の「大地に耳をすます。気配と手ざわり」を取り上げた時にも、もっと前に千葉の市原湖畔美術館での個展についても書きました。もともと大胆だったけど、奄美に移住してからますますパワーアップしてますね。
森の中の光景です。彼女の中の原始の森。「ここはけものみち。ムニムニ、じょわじょわ、くさばなたちがさわいでる。けもののにおいがしてきたぞ。」
「ぺテぺテぺテぺテ ザーゾーザーゾー」「むおんむおん ぐねれぐねれ」「ガムルガムル バオウバオウ」「ボギザダ ボギザダ」オノマトペも楽しい。
さいごは「ここはけものみち だれでもとおっていいところ」で終わります。
木ではないのをもう一つ。
「世界のはじまり」バッシュ・ジャーム作。2015年。ターラーブックス。二ホンでの出版はタムラ堂。
これはインド・チェンナイ郊外の工房で、手漉き紙にシルクスクリーンで印刷して手製本で一冊ずつ仕上げたターラーブックスのハンドメイドの本。「夜の木」で一躍有名になりました。
ゴンドアートの第一人者によって、神話的世界と日常生活を結びつけて描かれた創世神話です。
ゴンドの神話では、世界のはじまりは水。何もないからっぽなところに、水がほとばしりでて、大気がうまれ、泥があらわれる、ミミズといっしょに。泥は七種の土となる。ゴンドでは最初に生れたものはミミズなのね。
時は昼と夜で一つの全体。季節は巡っていて、一つのサイクルが終わると新たなものが始まるという世界観。
最後に。「夜の木」 木がテーマなら、これを入れなくちゃね。
バッジュ・シャーム、ドゥルガー・バーイー、ラーム・シン・ウルヴェーティという3人のゴンドアーティストによって描かれた木にまつわる神話の絵本。2012年に日本ではタムラ堂によって出版。
NHKの“せかいはほしいものであふれている”で取り上げられたりして人気になりました。
“せかほし”では紙の回で取り上げられたようです。コットンから作られた手漉きの紙、普通の紙の本とは手ざわりが全然違います。
描かれているのは神話に基づく想像上の木です。
菩提樹は創造主のすみか。ドゥーマルは聖なる木。ヘビの女神は地面の下に住んでいてその上には1本の木が生えている。キルサリの木はどこにいても守ってくれる。センバルの木には精霊が住んでいて、闇夜に光る。
‥‥おもしろいです‥、おはなしも絵も。
ちなみに、ターラーブックスの本はハンドメイドでちゃんとナンバーが打ってあります。
私が持ってるのは「夜の木」が1746 / 3000、(第何刷かはよくわからない)、「世界のはじまり」が第4刷の1908 / 2000 です。
ぜひ一度手にとってみてほしいなぁ、てざわり、ほんときもちいいです。
そんなこんなで、今回の展示、一度ならず二度三度と手にとり、見かえしたりしちゃって
なかなか飽きません。
小さなブックスペース、つくってよかった!とつくづく思っています。
(2024年10月26日 水野佳 絵本の紹介の中では、原文の表記のままにしてるのもあって、ひらがなだらけになりました。)